天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 兄さんはしばらくの間、黙り込んでいたけど、すっ……と部屋のとある一点を見つめ。

「アイツ等が欲しているのは、ただの血だ。液体だ。それ以上でもそれ以下でもない。アイツ等ときたら跡取りがいなくなった途端、掌を返しやがって。勝手過ぎるんだよ、都合良過ぎだ。
 本当、馬鹿げているよな。今はもう令和という時代なのに、時代錯誤も甚だしい。古い習慣に囚われ振り回されている、かわいそうな連中だ」

 兄さんの口から吐き出された湿った息が、その場を支配する。兄さんはどこか遠くを見つめている。兄さんの瞳には、一体なにが映っているんだろう。

 そんな兄さんに、だけど私はなにも言えない。なんて言ったらいいのか分からない。

 なにも言えずにいる私を、けれど兄さんは少しも気にかける様子もなく、外の世界に耳を傾ける。

「表の方が静かになったな。そろそろ行くか」

 兄さんは、帰るぞって。そう言うけど、簡単に帰れるかな?

 それでも私達は部屋を出て、身を潜めながら音を立てないよう忍び足で進んで行く。

 だけど。

「いたぞ、捕まえろ!」

 ……やっぱり無理だよね。だって、このお屋敷に使用人はたくさんいるんだもん。

 私達は、あっという間に取り囲まれてしまう。目の前には人の壁が築かれていく。
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