天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「腹違いの兄弟が集まって一緒に暮らしているなど、みっともない! いい加減、戻って来い! これ以上、豊島の名に傷を付けるな」

「お前はなんのために生まれてきたんだ!」と、おじいさんはより声を荒げさせる。そんなおじいさんの態度に、私の中でぷつんと糸のようなものが切れた。

 なんなの、なんなの……?

 無関係の私が口を挟むのはどうかと思って、黙って聞いていたけど。それじゃあ、まるで道松兄さんが豊島家の跡を継ぐ以外に存在意義がないみたいじゃない……!

「くだらないっ……!」

 私の口から思わず声がもれた。すると、おじいさんは一際瞳をとがらせた。

「くだらない? くだらないだと……?」

「ええ、そうよ。血なんてそんなもの、見たって分かんないのに。そんなくだらないものにばっかり、こだわって!」

 私はきっぱりと言ってやる。ええ、何度だって言うわよ、くだらないって。

「私はえらくもすごくもないけど、でも、けど、どうかと思います。道松兄さんに復縁してほしい理由が、唯一本家の血を引いてるから? ……子どものこと、なんだと思ってるんですか。
 子どもは大人のための便利な道具なんかじゃない! そんなに体裁が大切なの? そんなに周りの目が大切なの!? 道松兄さんの気持ち、考えたことあるんですか? そんなくだらないものより、もっと大切なものがあるんじゃないんですか!?」

 そうだよね。血なんてそんなもの、関係ないよね。私は自分に言い聞かせる。

 私は道松兄さんの手首をつかんで、
「帰ろう、道松兄さん」
 そう言って門目がけて歩き出す。

 そんな私の背中に向けて、
「本当によろしいんですか?」
 秘書さんは例の大金の詰まったアタッシュケースを掲げてみせる。

 私はそれを鋭く睨みつけて、
「お金なんて、そんなもの、いらないっ!!」

 それでも無理矢理ケースを持たせようとする秘書さんの手を私は払い除ける。するとその拍子にケースが落ち、中に入っていた紙幣がばさばさと風にあおられ天高く舞った。私はその紙の行方を見守っていたけど、
「行くぞ」
 道松兄さんが立ち尽くしていた私の腕をつかむと引っ張った。

 私はその力に素直に従い、門へと向かう。だけど一度だけ、ちらりと振り返ると、気のせいかもしれないけど、おじいさんはなんだかさみしそうな顔をしていたように見えた。
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