天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 夜が明けて、一日経っても私の怒りは収まらない。食べ物の恨みは、そう簡単には許せないよね。

 放課後になって部活も終わって。それでもまだプリンの恨みをどうやって晴らそうか、いいアイディアが思い浮かばず。私はあれこれ考えながら一人帰路を歩く。

 だけど、ふと後方に気配を感じると立ち止まり、ゆっくりと振り返った。すると電信柱の陰に、黒のパーカーの帽子を目深にかぶっている上にマスクを付けた男の人が立っていた。

 あの人、確か昨日も見かけたな。昨日もあんな風になんだかこそこそしてた。

 なんだろう。
 首を傾げていると、
「あれ、牡丹ちゃんだ」
 後ろから桜文兄さんが手を振りながら私の傍にやって来た。兄さんの隣には菊もいる。すると例の男は、こそこそと身を縮めながら来た道を引き返して行った。

 桜文兄さんは、その男のことをちらりと眺めて、
「あの人、牡丹ちゃんの知り合い?」
 そう訊ねてきたけど、
「知りません……」
 私はそれしか言うことができなかった。
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