天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「桜文の兄貴、おはようございます!」

「ああ、おはよう」

「兄貴、カバンをお持ちします」

「いや。これくらい、自分で持つって」

「そんな。カバン持ちくらい俺達に任せてくださいよ。ん……? なんだ、このガキ」

 ぺこぺこと頭を下げていた男子生徒だったけど、私に目がいくと突然態度を一変させた。鼻先でやくざ並みの睨みを効かされた私ののど奥から、思わず「ひいっ!?」と短い悲鳴が上がった。

 だけど。

「おい、お前。なにをしてるんだ! このお方は、兄貴の妹君になられた牡丹嬢だぞ」

「なっ、なんと!? 兄貴の妹君であられましたか! これは大変失礼しました!」

「いえ、あの。そんな気にしてないので……」

 未だにぺこぺこと頭を下げ続けている男子生徒達を余所に、私はそそくさとその場から離れた。

 桜文兄さんの隣に並んで、
「びっくりした……。朝からすごい出迎えですね」

「恥ずかしいから止めてくれといつも言ってるんだけど、アイツ等、全然聞いてくれなくてさ。困ったやつ等だよ」

「今日もお勤め、行ってらっしゃいませ!」と背中越しに声援を浴びながら、桜文兄さんは、へらりと太い眉を下げる。

 昇降口に着くと桜文兄さんは、
「それじゃあ、牡丹ちゃん。放課後またね」
 兄さんとはそこで別れ、私と菊は一年の教室へと向かう。

 だけど、その最中。不意に菊が足を止め、
「おい、ちんちくりん。調子に乗ってんじゃねえぞ」
と言い出した。

「な、なによ、調子に乗るなって」

 一体どういう意味だろう。別に私、調子になんか乗ってないけど。

 だけど菊は教えてくれない。つんとそっぽを向くと、すたすたと一人先に行ってしまう。

 おまけに、
「後悔しても知らないからな」
なんて、なんだか物騒なことまで言い残した。

 私がその意味を知るのは、しばらく経って、放課後になってからで――……。
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