天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 結局一夜明け、もやもやしている内に時間はあっという間に過ぎていって、とうとう部活も終わってしまった。

 どうやら演劇部より剣道部の方が先に終わったみたい。私は迷ったけど、演劇部が活動しているという視聴覚室に行ってみた。

 教室の中をこそっとのぞくと、どうやら活動は終わっている雰囲気だ。私はその中から菊の姿を探すけど、やっと見つけた菊は、……紅葉ちゃんと一緒にいた。

 菊は紅葉ちゃんとなにか話してて。……邪魔しちゃ悪いよね。それに、大体あの菊が本当に一緒に帰ってくれるとは思えない。一人で帰れよって、そう言われるに違いない。

 私はそっとその場から離れると、昇降口へと向かった。

 最近、ストーカーの姿はすっかり見かけなくなったから、きっともう大丈夫だよね。私は自分にそう言い聞かせると、それでも念のため、早足で家目指して歩いて行く。

 だけど、しばらく歩いていると、ふと嫌な気配を感じた。そっと振り返ると……。

 げっ、なんで今日に限っているの……!!?

 例の黒いパーカーにマスクをした男が、こそこそと電信柱に身を隠しながらもやっぱり私の後をついて来ていた。

 どうしよう。こんなことなら嫌がられても菊にお願いすれば良かった。だけど、もうどうすることもできない。心臓はどくどくと奇妙な音を立て、全身から、だらだらと冷や汗が流れ出す。

 怖い……。だけど、自分でどうにかするしかない……!

 私は己を奮い立たせると、ストーカーを見すえる。人間って極限状態に立たされると不思議だよね。恐怖心は消え去って、代わりにだんだんイライラしてきた。だって、どうして私が怯えないといけないの? 私、悪いことなんてしてないのにっ……!!
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