天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 私は感情に流されるがまま、それでも一応用心のため竹刀を袋から出して柄を握り締めると、男の方に向かって歩き出す。

「あ、あの、私になにか用ですか!?」

 私は竹刀の先を男の方に突き出しながら問いかける。すると男はたじろぎ出し、後ろに下がっていく。

 そのまま逃げてくれればいい。そう強く思う私だったけど、残念ながら男はおたおたと危なっかしい手付きながらも胸元に手を突っ込んで……。えっ、ウソ。なんだろう、ナイフでも出す気……!?

 その光景に私の体は自然と強張る。逃げなくちゃいけないのに、体がうまく動かない。足と地面が接着剤でくっ付いちゃってるみたいだ。

 どうすることもできないでいる私だったけど、
「おい!」
と言う声に意識を揺すられ、振り向くと――。

 え……、菊……?

 なんで、どうして……。

 でも、その疑問を口に出す前に、菊が私とストーカーとの間に入り込んだ。菊はちらりと顔だけを私に向け、
「このバカっ!」
と怒鳴った。

「お前、なに考えてんだよ!」

「なにって、だって……」

 だけどこの続きが紡がれることはなく、代わりに私は、
「きゃっ……!?」
と再び刃物を出そうとしているストーカーに短い悲鳴をもらした。

 その光景に、菊はとっさに私のことを突き飛ばす。その衝撃で私は地面に尻もちを着いた。
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