天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「梅吉、今日はアタシとデートだよね!?」

「なに言ってるの。梅吉は私とデートするんだから!」

 二人は目を燦爛と光らせて、
「どっちを選ぶの!?」
 ぐいぐいと兄さんに詰め寄っていく。

 きっと本来なら展開されるはずだった楽しいデートのために、せっかくした化粧も憤然とした面持ちのせいですっかり台無しだ。

「梅吉、アタシよね!?」

「いいえ、私に決まってるわ!」

「なによ、アタシだってば!」

「あなたより私の方が梅吉に相応しいわ!」

 のべつ幕なし、彼女達は次から次へと言葉を発する。ぴーぴーと二人の言い争いは止まらない。

 その原因である兄さんは二人の顔を交互に眺め、眉間に皺を寄せて考え込む。

「そうだなあ。よし、こうなったら……」

 そう一人決意すると、がしりとなぜか私の腕をつかみ取った。

「ごめん、二人とも。俺、今日はこの子とデートするから」

「……はあっ!?」

「ちょっと、どういうことよ!」

 そうだよ。兄さんったら、突然なにを言い出すんだろう。二人はもちろん納得するはずがない。またしても非難の音を上げ始める。

 だけど兄さんは私の耳元に顔を寄せ、
「牡丹、行くぞ」

「えっ。行くってどこに……って、きゃあっ!?」

「ちょっと、梅吉!? どこ行くのよ!」

「話はまだ終わってないわよ!」

「待ちなさいよ!」甲高い音で喚く二人を一切無視して、兄さんは私の腕をぐいぐいと引っ張ってその場から走り出した。

「ちょっ……、ちょっと、梅吉兄さん! どうして私まで逃げないといけないんですかっ!?」

「どうしてって、そうだなあ。話の流れ的に……かな?」

「はあっ? 意味が分かりません!」

 私は声を荒げて非難するけど、背後から迫って来る鬼の仮面を付けた二人の女の人の姿が目に入ると、ひっと短い悲鳴がのど奥からもれた。

 瞬間、兄さんについて行くという選択肢以外はきれいに消え去って、私は引っ張られるがまま、ひたすらに足を動かし続けた。
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