天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「はあっ、はっ、はあ……。つ、疲れた……」

 結局、公園の中をぐるぐると走り回り続け、私達はどうにか例の二人組から行方をくらませることに成功した。だけど、そのせいですっかり息が上がっていた。

 ぜいはあと荒い呼吸を繰り返す私とは裏腹、梅吉兄さんは余裕の表情で自販機でコーラを二本買うと、
「ははっ、悪い、悪い。おわびにおごるから。ほら、これで許してくれよな」
 その内の一本をひょいと私目がけて放り投げた。

「……っと。もう、梅吉兄さんは! それよりいいんですか?」

「いいって、なにが?」

「だから、さっきの女の人達ですよ。すっごく怒ってたじゃないですか。それに二股なんて良くないと思います!」

 そんなの、まるでお父さんみたい……。

 なんて。思ったけど、私は声には出せなかった。代わりに缶に口を付け、ごくりとコーラと一緒に飲み込んだ。

 だけど。

「はあ、二股って?」

「二股は、二股です。兄さん、さっきの二人と付き合っているんですよね。しらばっくれる気ですか?」

 その上、栞告ともデートの約束をしてたなんて。ますます信じられない!

 思わずジロリと兄さんのことを睨み付けた。

 けれど兄さんは、ぽりぽりと頬をかき、
「しらばっくれるもなにも、あの子達は彼女じゃないしなあ」

「へっ……?」

「だから二股ってさ、普通は二人の人間と同時に交際していることをいうだろう。けど俺はあの二人とはそういう関係じゃないから、つまりは該当しない訳だ」

「そういう関係じゃないって……。あの二人、兄さんの彼女じゃないんですか?」

「ああ」

「だって俺、彼女は作らない主義だから」と、きょとんと目を丸くしてるだろう私を置き去りに、兄さんはさらりと後を続ける。
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