天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「ほら、俺って博愛主義っていうの? この世の女の子は俺のもの、俺も女の子みーんなのものってね。だから女の子とは平等に接するのが俺のポリシーだ。彼女なんて作って一人だけを特別扱いしたら、悲しむ子がどれほどいることか……。
 それに、この日本だけでも六千万人もの女がいるんだぜ。なのに、たった一人だけを選ぶなんて。そんなのもったいないじゃないか」

 とてもじゃないが俺には考えられない、と兄さんは、けらけらと得意気に答える。

 そんな兄さんの独特な考えに、もちろん凡人の私は到底ついていける訳もなく……。げんなりとした面持ちで、ふさがらない口をそれでもどうにか動かした。

「あのう。そういうの、へりくつって言いません?」

「なにを、失敬だなあ。大体、俺達はお互い合意の上でそういう関係を築いてるんだ」

「本当ですか? あの二人ですが、とてもそんな風には見えませんでしたよ」

 これでもかというほど目を細めて、私は兄さんに疑いの眼を差し向ける。

「ははっ、それはだなあ……。たまにいるんだよ、『私なら梅吉を変えられる!』……とか言って、いつの間にか彼女面し出しちゃう子が。つまり、さっきの二人がいい例だな」

「それって本当に合意してると言えるんですか? たとえ兄さんのいう、そのー……、彼女じゃないとしても。そうやって女の子と無闇に遊び回るのは、止めた方がいいんじゃないですか」

「はあ、なんで?」

「なんでって、だって、いい感じがしないじゃないですか。彼女でもないのに、その、軽い気持ちでそういう真似事をしてるってことですよね。まさか兄さんがこんな女遊びしてるなんて思っていませんでした」

「けどなあ。そんなこと言われても。俺は楽しいし、それに、なにより大体の子は、それで納得してくれているしなあ」

 だから、そういう問題では……。

「ないと思います」私はそう言おうとしたけど、でも、どうせ口の達者な兄さんのことだ。 決して敵わないだろうとすぐに見極めると、わだかまりを感じつつもそっと口をつぐんだ。

 けれど。

 梅吉兄さんのこと、よく分からない。兄さんのしていることは、まるでお父さんと同じだ──……。

 前を歩き出す兄さんの背中に、私の胸は、きゅっと締めつけられた。
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