天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 彼女は私に詰め寄って、
「ちょっと、アンタもグルなんでしょう!? 梅吉をどこに隠したのよ、早く出しなさいよ!」

「私は知りませんよ、梅吉兄さんがどこにいるかなんて!」

「ウソを吐くんじゃないわよ! どうせアンタが兄さんを……って、ん……? 兄さん?」

「えっと、私、梅吉兄さんの妹で牡丹といいます」

「あら、やだ。妹だったの? てっきり梅吉の新しい女とばかり……」

 私が兄さんの妹だと分かると、彼女は、ころっと態度を急変させた。

 誤解は解けたけど、でも、兄さんに対する怒りが収まることはないようで。仕方がないので私はその女生徒――湯沢(ゆざわ)駒重(こまえ)さんを弓道場へ案内する。兄さんは袴を着ていたから、必ず弓道場に戻ってくるだろうとの考えからだ。

 だけど。

「えっ。梅吉兄さん、もう帰っちゃったんですか?」

「ああ。天正なら先程こそこそと戻って来たかと思えば急用ができたとか言って、さっさと帰宅したが」
と弓道部の部長だという穂北(ほきた)先輩が教えてくれる。それを聞いて駒重さんは、「えーっ」と声を上げた。

「もう、仕方ないわね。アタシも梅吉を追いかけ回して疲れちゃったし、今日はもう帰るわ」

 駒重さんがそう言うので、私達は来た道を引き返す。

 しかし、その最中、
「おい、そこの二人。ちょっと待て」
 穂北先輩に声をかけられ、そして――。

 気付けば私達は弓道場へと上がって、なぜか正座をさせられる。
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