天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 全く、梅吉兄さんってば……!

 ほんっとーに私のこと、バカにしてる。なにがキスしてくれたら女遊びをやめてやる、よ。やめる気なんて全然ないんじゃないっ……!!

 一日経っても私の怒りは収まらない。隣を歩く美竹は、
「牡丹ってば、まだ怒ってるの? もう放課後なのに」
 しつこい性格してるよね、とあきれた顔で後を続ける。

「だって……」

「梅吉先輩はああいう性格なんだから適当に流しなよ」

 美竹はそう言うけど、でも、私は……。菊にも同じことを言われたけど、やっぱりなんだか兄さんのことを放っておけなくて。菊の言う通り、お節介なのは分かってはいるんだけどね。

 そんなことを考えていると、いつの間にか昇降口に差しかかり、美竹とはそこで別れ、私は部活のため一人剣道場へと向かった。

 だけどその途中、
「牡丹ちゃん」
と不意に私を呼ぶ声がした。一体どこから……。きょろきょろと辺りを見回すと草陰に、
「わっ、駒重さんっ!?」

 なぜか駒重さんがいた。

「どうしたんですか?」

 また忍び込んだんですかと訊ねると、駒重さんは、ばつの悪い顔をした。

「あはは、ちょっとね。
 ねえ、牡丹ちゃん。今、時間大丈夫?」

「えっ? ええ、まあ。部活前なので少しなら」

「そっか、それなら良かった。
 今日は牡丹ちゃんに謝りに来たの。散々迷惑かけちゃったから」

 駒重さんはカバンをあさり、
「これ、おわびの印。良かったら食べて」

 カバンの中から出てきたのは、手作りのカップケーキだ。私はお礼を言って受け取った。

「所で、駒重さんはこのためだけに来たんですか?」

 すると駒重さんは薄らと笑った。
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