天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「それもあるけど、本当は梅吉に会いに来たの。でも、いざとなったら急に怖くなっちゃって。それに、ほら、あの口うるさい……、ええと、なんて名前だっけ?」
「穂北先輩ですか?」
「そう、そう! そいつに見つかったら、またとやかく言われそうだしさ。
……なんて、ただの言い訳よね。あははっ、自分でも分かってるの。でも、今は距離を置いた方がいいかなって。ほら、アタシって、ちょっとだけど興奮しちゃう所があるじゃない?」
「はい、そうですね……」
あれは、“ちょっと”という尺度で済むとは思えないけど……。だけど私は口に出すような野暮なことはしないで、代わりに駒重さんからそっと視線を逸らした。
「そのカップケーキ、梅吉がいつもおいしいって食べてくれてたの。だから味の保証はするわ。
けど、アイツって好き嫌いないじゃない。結局はなんでもそう言って食べちゃって。だから特別じゃないって分かってるんだけど、どうしてかな。やっぱり単純だけどうれしいのよね」
そう言って、小さくはにかむ駒重さん。確かに梅吉兄さんは、好き嫌いがない気がする。ご飯もいつも残さず全部食べてるしね。
私は、じっと手の中のカップケーキを見つめ、
「あの。このカップケーキ、私がもらってもいいんですか? 本当は兄さんに……」
「ああ。いいの、いいの。牡丹ちゃんには元々あげるつもりで別に作ってたから。
……っと、もうこんな時間か。さてと、そろそろ帰るね。ごめんね、時間取らせちゃって」
「いえ、それは構いませんが、本当に兄さんに会わなくていいんですか? 一人で行きづらいなら一緒に行きましょうか」
「ううん、大丈夫よ。気持ちだけ受け取っておくわ、ありがとう。牡丹ちゃんって優しいのね」
「いえ。別に私は……」
「もう、牡丹ちゃんってば。こういう時は素直に受け取っておけばいいのよ。
でも、あのデートの日、梅吉が選んだ相手がもう一人の子じゃなくて牡丹ちゃんで、本当にほっとしたな。ほら、アイツって選べないじゃない? なのに、とうとう相手を見つけたのかなって」
「えっ。選べないって……」
私が訊くと駒重さんはさみしそうな顔をして、
「梅吉は嫌いなものが少ない代わりに、好きなものも少ないのよ。分からないのよ、きっと好きって気持ちが。だからいろんな女の子と関係を持つんでしょう?」
駒重さんはもう一度、「じゃあね」とささやくと静かにその場を後にした。
私はそんな後ろ姿を手にしたカップケーキを持て余したまま、見えなくなるまで見送った。
「穂北先輩ですか?」
「そう、そう! そいつに見つかったら、またとやかく言われそうだしさ。
……なんて、ただの言い訳よね。あははっ、自分でも分かってるの。でも、今は距離を置いた方がいいかなって。ほら、アタシって、ちょっとだけど興奮しちゃう所があるじゃない?」
「はい、そうですね……」
あれは、“ちょっと”という尺度で済むとは思えないけど……。だけど私は口に出すような野暮なことはしないで、代わりに駒重さんからそっと視線を逸らした。
「そのカップケーキ、梅吉がいつもおいしいって食べてくれてたの。だから味の保証はするわ。
けど、アイツって好き嫌いないじゃない。結局はなんでもそう言って食べちゃって。だから特別じゃないって分かってるんだけど、どうしてかな。やっぱり単純だけどうれしいのよね」
そう言って、小さくはにかむ駒重さん。確かに梅吉兄さんは、好き嫌いがない気がする。ご飯もいつも残さず全部食べてるしね。
私は、じっと手の中のカップケーキを見つめ、
「あの。このカップケーキ、私がもらってもいいんですか? 本当は兄さんに……」
「ああ。いいの、いいの。牡丹ちゃんには元々あげるつもりで別に作ってたから。
……っと、もうこんな時間か。さてと、そろそろ帰るね。ごめんね、時間取らせちゃって」
「いえ、それは構いませんが、本当に兄さんに会わなくていいんですか? 一人で行きづらいなら一緒に行きましょうか」
「ううん、大丈夫よ。気持ちだけ受け取っておくわ、ありがとう。牡丹ちゃんって優しいのね」
「いえ。別に私は……」
「もう、牡丹ちゃんってば。こういう時は素直に受け取っておけばいいのよ。
でも、あのデートの日、梅吉が選んだ相手がもう一人の子じゃなくて牡丹ちゃんで、本当にほっとしたな。ほら、アイツって選べないじゃない? なのに、とうとう相手を見つけたのかなって」
「えっ。選べないって……」
私が訊くと駒重さんはさみしそうな顔をして、
「梅吉は嫌いなものが少ない代わりに、好きなものも少ないのよ。分からないのよ、きっと好きって気持ちが。だからいろんな女の子と関係を持つんでしょう?」
駒重さんはもう一度、「じゃあね」とささやくと静かにその場を後にした。
私はそんな後ろ姿を手にしたカップケーキを持て余したまま、見えなくなるまで見送った。