天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 梅吉兄さんの気持ち、全く分からない訳じゃない。少しは分かるの。

 兄さん、本当は怖いんだ。

 裏切られるくらいなら、それで傷付くくらいなら、初めから誰のことも好きにならなきゃいい。だから私は誰のことも好きにならない、一人で生きていこうって決めたんだもん。

 兄さんも私と同じだ。だけど、だからって人の気持ちをもて遊ぶのは、やっぱり間違ってる。

 私、兄さんに、お父さんと同じことをしてもらいたくない――。

 私はがむしゃらに、間に合えと願いながら走り続けた。

 公園が見え園内に入ると、良かった、栞告はまだ来てないみたい。梅吉兄さんの姿だけが見えた。

 私は乱れている息をそのままに、ベンチに腰かけている兄さんの元へ駆け寄り、
「梅吉兄さん!」
 そう叫ぶと、
「もうやめましょうよ、こんなこと」必死に訴えた。

 だけど兄さんは気怠そうな顔で私を見つめる。

「あのよう、牡丹、何度も言ってるけどさ。俺達は合意の上でしてるんだ」

 だから俺には構うなとか、お前には関係ないだろうとか。兄さんは、そんなことを言っていたと思う。なんで仮定系かと言えば、この時の兄さんの態度に腹が立ち、私の沸点は一気に限界突破したからだ。

 気付けば私は右手を大きく振り上げていて、パンッ――! と乾いた音がその場に強く響き渡った。

 その余韻に浸る暇もなく、
「本当は……、本当は、本気で人と向き合う勇気がないからでしょう! 本気で人を好きになるのが怖いからでしょう! 人に好きになってもらえる自信がないからでしょう! 兄さんの……、兄さんの臆病者!」
 私はそれだけ言うと、その場から走り出した。

 兄さんなんて、もう知らない! その内、誰かからすっごく恨まれて、包丁なんかで刺されちゃっても知らないんだからっ……!

 私は一度も振り返ることなく、またしても全力疾走で家目指して走り続けた。
< 88 / 164 >

この作品をシェア

pagetop