天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「私はいいんです。誰も好きにならないって決めてるので」

「へえ、それはまた。まあ、別にいいんじゃねえの。どうするかは、お前の自由だ。
 そんじゃあ、そんな牡丹ちゃんに、とっておきの朗報だ。知ってるか? キスってさ、好きな相手じゃなくても簡単にできちまうんだぜ?」

「えっ……?」

 キスって……、キスって――!?

 なにも言えないでいる私に兄さんは、にたりと白い歯をのぞかせる。

 おまけに、
「なんなら今から試してみるか?」
なんて言い出して、月光の下、兄さんは私の頬にそっと片手を添えると、ぐいと顔を近付けて来た。

「なんて。冗談だよ、冗談。って、おーい、牡丹」

「聞いてるかー?」と、とっさに距離を取った私に兄さんは声を張り上げる。

「なんだよ。もしかして真に受けたのか?」

「……兄さん。私のこと、絶対にバカにしてますよね?」

「バカになんかしてねえよ。けど、どうせなら大事に取っておきな。ファースト・キスは、一生に一度しかないんだから」

 それくらい……。

 言われなくても知ってます。そう返すつもりが、だけど急に強く吹き上がった風が邪魔をした。

 風が止むけど結局は興が覚め、私が口を閉ざすと、隣で兄さんは腕を枕代わりにしてごろんと寝転がった。
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