天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 藤助兄さん、なんだかうれしそう。

 それにしても天羽さん、か。天羽さんとは、この家に来てからまだ一度も会えてないんだよね。

 兄さん達の話によると、天羽さんはお仕事で出張することが多くて、今もニューヨークにいるんだって。

 電話を終えた藤助兄さんが食卓に戻って来て、ようやくいただきますのあいさつができた。

 梅吉兄さんは箸を片手に、
「藤助、じいさん、なんだって?」
と訊ねる。

「みんな元気にしてるかだってさ」

 その返答に梅吉兄さんは、「そっか」と簡単に答える。

 梅吉兄さん達は、天羽さんのことをじいさんなんて呼んでいるけど、でも、そんな見た目じゃないんだよね。詳しい年齢は聞いたことないけど、三十代半ばくらいだと思う。前にどうして天羽さんのことをじいさんなんて呼ぶのか訊いたことがあるけど、
「じいさんは、じいさんだろう?」
って適当に流されちゃったんだよね。

 天羽さんには訊きたいことが……、お父さんのことを教えてもらいたいけど、でも、そんな理由からまだ訊けずにいる。お父さんのことを知っているのは、唯一天羽さんだけなんだもの。早く帰って来てくれないかな。

 そんなことを思いながら私は晩ご飯を食べたけど。お父さんのことを思い出したら、なんだかもやもやして。結局、寝る時間になってベッドの中に入ったのに、なかなか寝付けなかった。

 水でも飲もう。

 私は部屋を出ると薄暗い廊下を通り、階段を降りていった。そのままリビングに入ろうとしたけど、すでに明かりが点いていた。

 消し忘れかな。部屋の中に入ると、
「あれ。藤助兄さん、まだ起きてたんですか?」

 藤助兄さんの姿が見えた。「ちょっとね」と言う兄さんの目前――、テーブルの上には布やら裁縫道具やらが広げられていた。兄さん、芒の衣装作り、まだしてたんだ。

「牡丹こそ、どうしたの?」

「私は、のどが渇いてしまって……」

 すると兄さんは立ち上がり、キッチンに入って、グラスに水を注いだものを持ってきてくれた。私は兄さんの向かい側に座って、それをゆっくりと飲んでいった。

 グラスの中身が空になり、私は立ち上がるけど。

「兄さん、まだ寝ないんですか?」

「うん、もう少しだけ……。牡丹は早く寝なよ、明日も学校なんだから」

 学校があるのは、兄さんもなのに。だけど私は、「おやすみ」という兄さんに見送られて、一人そっと部屋を後にした。
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