空前のクソ妹ブームにのっかってみたところ。
「お姉さま。昔、私の名前を使いましたよね?」
 とニコレッタに言われる。アドリアーナは何も言わない、いや、言えない。

「コンラート様が、望んで私を婚約者にという話でしたので、なぜ望まれたのかを聞きましたところ、あのときのことを覚えているか、と言われました。私には何がなんだかさっぱり。コンラート様も不機嫌な顔になりましたわ。きっとこの方は、昔のニコレッタに想いを寄せていて、今のニコレッタには興味が無いのだと思いました。では、コンラート様が想いを寄せている昔のニコレッタはどこにいるのでしょう? お茶会を抜け出して花の世話をするようなニコレッタは、当時のことを考えると、お姉さま以外おりません」

 きっぱりとニコレッタに宣言される。

「お姉さまは、ベルンハルト様との婚約が決まった、ということをお父さまがおっしゃったときには表情を変えなかったのに、私とコンラート様の婚約が決まったことを聞いたときには、かなり驚いた顔をされていましたわ。私はこのままコンラート様と一緒になっても幸せにはなれない。そして、お姉さまがベルンハルト様と一緒になっても幸せにはなれない。それならばいっそのこと、クソ妹ブームにのってみようかと思いました」
 ニコレッタは笑む。
「私は、ベルンハルト様を魅力的な方だと思っています。きっとこれから、好きになります」

「ニコレッタ。あなたはベルンハルト様との婚約が嫌では無いの?」

「昔のニコレッタに想いを寄せていて、今のニコレッタに見向きもしないコンラート様よりは数百万倍マシです」

 そこでニコレッタは、姉に捕らえられていた両手を放して、その手でそっと姉を抱き寄せた。
「私はお姉さまにも幸せになって欲しいのです。昔からお姉さまは、私にいろいろと譲ってくださいました。私は優しいお姉さまがいて、とても幸せです。でも、お姉さまは私のことばかりを考えて、自分のことを考えてくださらない。そろそろお姉さま自身の幸せを考えて欲しいのです」

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