純恋歌
「これ、亜依子ちゃんのだよね?」

「ありがとう、私の」

救世主現る!

(でも誰だ?)

向こうは私を知っているようだが私は知らない。

必死に思い出そうにも全く出てこない。

「ひでぇ!俺の事わかんないんだ!落としたの気付いて届けたのに」

「あはは、あはは」

「さっきまで一緒に遊んでたのに」

「え?ああ!ああ!あはは!」

そう言ってもまっっったく顔も名前もわからなかった。

「修平(しゅうへい)です!21歳の会社員の!」

「え?」

あれ?今日の合コンみんな高校生じゃなかったの?

どうやら修平君の話しだと幹事の子は高校生だったが残りの人達はみんな歳上だったみたいだ。

大して乗り気じゃなかったので全く聞いてなかったし知らなかった。

「まあ、無事渡せたから良かったよ、じゃあね」

そう言って修平君は電車の乗り場に戻って行こうとした。

「あれ?ここじゃないの?降りるの?」

「違う違う、全然違う場所」

(私だったら拾っても駅員さんに渡すのにな)

純粋に彼の優しさが気になった。

「ねぇ、なんでわざわざ届けてくれたの?」

「んー。亜依子ちゃんが気になったから」

ニコッと微笑み

「今度お礼にご飯付き合ってね」

そう言って手を振って帰って行った。

修平君は爽やかで見た目も悪くないし良い人だと思う。

そんな人に優しくされたら喜ばしい事だと思う。

けど私は人生で2回目の問いかけに心のどこかで昔私に優しくしてくれた少年の言われた答えを期待していた。

「人間はね、自分が困らない程度内で、なるべく人に親切がしてみたいものだ」

夏目漱石の言葉。

(私が求めてた答えと違ったな…)

甘い口説き文句よりもキレイで奥ゆかしさのある言葉を言われたいと昔から思っている。

「あの後、すぐに帰ったの?」

月曜日の朝、麻央に聞かれた。

「うん、帰ったよ。あ、でも私パスケース落としてて…」

私は先日の出来事を話した。

麻央はあの後、男の子と2人きりで一夜を明かしたみたいだった。

頬を染め照れた顔の麻央に何をしたか詳しく聞かなかったがきっと夜な夜な人生ゲームやドンジャラをやったのだと思う。間違いない。

「修平君とご飯行くの?」

「うん。そうだね、せっかくパスケース届けてもらったし一回はね」

「そんな1回とは言わずに付き合えば良いじゃん。年上って大人だし良いと思うよ」

「まあ、確かに車持ってるようだしありっちゃありだな」

その後も色々話しをし、学校の授業も終わり放課後となった。
< 178 / 231 >

この作品をシェア

pagetop