そのラインを越えて
ずっとうつむいたままの蒼生くんを見つめながら、私はひとり、北風に吹かれたような寒さを感じていた。
それでも。
「蒼生くん、私を助けてくれてありがとう」
ちゃんと言いたかった。
あの時の、お礼。
蒼生くんは気まずそうに軽く会釈したけれど、やっぱり目を合わせようとしない。
「じゃあ……、私はこれで……」
そう言って去ろうとしたら。
私の足元にモフモフとした柔らかい感触が。
ゆっくり足元を確認する。
「……ッ!!」
自分でもサーッと青ざめたことが分かった。
私の足にスリスリと、少し太った白ネコがすり寄ってきていた。
「ニャ!ニャンコ!……へっぶし!!」
大きなくしゃみが出る。
逃げようにも、足元にいる白ネコを万が一蹴ったりしたら大変だと思うと、私はその場から動けなくなった。
「へっぶし!」
蒼生くんはポカンとしている。