そのラインを越えて
本当の私
古い団地。
この団地の2号棟の2階。
階段を上がって左に進んだ205号室が私の家。
「ただいまー」
玄関を開ける。
妹の乃愛はもう帰っていたみたいで、洗面所からひょこっと顔を出した。
「おかえりー、姉ちゃん。今日、早くない?」
「寄り道しないで帰ってきたから早かったのかも。あれ、ママは?」
「パートに行ってる〜」
話しながら、私も洗面所に行き、手洗いうがいをする。
乃愛は廊下に出て、玄関に近い六畳間に移動した。
私と乃愛の共同部屋。
「ねぇ、頼みがあるんだけどさー」
私はなるべくゆっくりした口調で言う。
「乃愛の洋服、貸してくんない?今度の日曜日」
「は?なんで?」
「……話せば長いから」
よく分からないといった表情をした乃愛だったけれど、洋服箪笥をとりあえず開けてくれる。
「どんなのがいいの?」
「清楚なやつ、かな?ギャルに見えないやつ」