そのラインを越えて
「は?マジで言ってる?姉ちゃんが着るの?清楚を?」
乃愛が半笑いになった。
「あ、笑うなよ。着るよ、清楚なやつ」
乃愛は「ふーん」と言って、洋服箪笥の中を漁り始めた。
「清楚なお嬢さん」という言葉がよく似合う乃愛は、大人しくも可愛らしいデザインの洋服を多く持ってる。
左耳の下でひとつに束ねた長い黒髪を、少しだけうっとうしそうに、背中のほうへ回した乃愛は、
「洋服を貸せって言われてもさー、姉ちゃんには似合わないって」
と、言い放った。
「いや、なんかあるでしょ」
私もがさごそ妹の引き出しの中を漁る。
「これは?」
両足を肩幅に広げたまま、大きな白い襟が印象的な紺地のワンピースを着て、キリリとした表情で妹に聞いてみた。
乃愛は冷ややかな目で私を見て、
「ぜんっぜんダメ!服の良さが姉ちゃんによって破壊されてるから!」
と、ダメ出しした。
「えぇ?」