そのラインを越えて
第2話
デートの始まり
N駅前。
大通りに続く道。
私は駅前のベンチの前で、仁王立ちしている。
襟ぐりが深く開いた黒いざっくりニットセーター。
インディゴブルーの、スキニーデニム。
キャメル色のふわふわスヌードを足して、濃いグレイ色のコートを着た。
ヒョウ柄のヒールはお気に入り。
両耳のリングのピアスはいつものゴールド。
「うん、バッチリ」
私は自分で、自分への合格点を出す。
この私は、私だから。
ハイトーンブラウンのサラサラの髪の毛は、きちんとブローして下ろしてきた。
もしかしたら。
いつも通りの私服を着た私を見て、蒼生くんは今より、私に苦手意識を強めてしまうかも。
そのことが怖くないって言ったら、嘘になる。
(しっかりしろ、心愛!自分で決めたことじゃん!)
顔を軽く叩く。
今、ここには鏡は無いけれど。
私、多分勇ましい表情をしていると思う。
戦に向かう武将みたいな。
(だって、これ、ある意味戦いだもん)
その時。
「た、田中さん」
背後から呼ばれた。
振り向くと、そこには私服姿の蒼生くんがいた。