日神ジャスティオージ外伝~Secret of Birth~

一方クロウ本部において白と黒の仮面をつけた二人の怪人(九尾の狐と石上)が怪しげな妖気の中恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。

「占いはいい。財閥や政界の連中、芸能界も・・・
我々のクロウの暗黒呪法によりみんな人心掌握されちゃっている!(石上)」

「人間世界の言行一切は我々の手の中におさまってるといっても言いすぎではない。
お前も人間どもの最新の流行はちゃんとチェックしているのだな~。(石上)」

「時代がどんなに変わっても、人間たちは変わらないよねェ、石上。絶対かなうわけもない夢や、
己の欲望のために身を粉にして働いてくれる・・・。
こういう連中が多ければ多いほど、僕らは非常に助かるんだよね。(九尾の狐)」

「愚かな人類は昔から、見えもせぬ己の幸福や未来の安泰のため、占いという下等な呪法に手を染めてきた~!
時代によって手を変え品を変え、名を変えながらリバイバルされてきただけだ。(石上)」

「何の神が・・・・悪魔が力を与えるか、知りもしないのに惑わされる。
その心情はひとかけらも変わっていない!ほんと~に馬鹿な奴らさ。(九尾の狐)」

「人知を超えた力があれば無分別に群がる蛍光灯の蛾ども!
・・・それが誰でも己の利益となるモノのみを神と思う不誠実さ、人どものおぞましい醜態だなあ。(石上)」

暗黒渦巻く本部内、テーブルの上に置かれた大きな料理蓋を九尾の狐が指さしつぶやいた。

「その正体は・・・・こいつさ。(九尾の狐)」

開けた蓋の中にいた動く”それ”を見て石上は息をのんだ。

「これはなかなかコアな・・・意外なチョイスだな。(石上)」

「だろ~?そんな人間どもにふさわしい姿に、これからなってもらうよ!コーン!(九尾の狐)」

真っ白いテーブルを囲み、三人の神妙な空気は続く。
終始ライトなテンションで話し続けているリョウ。どうにか場を収めようと気をもむハナ。

「俺と手を組もうって話。別にそう悪い話じゃないと思うんだけどな!(リョウ)」

「私がさっき言ったことは、その・・・(ハナ)」

テルヒコは、リョウとハナ二人の顔を見て、息をつき静かに言い放った。

「キミたちは、俺と関わらないほうがいい。」

普段と違ういつになくあまりに真剣な表情に、ハナは言葉を挟むことができなくなっていた。

「どうしてそんなせっしょーなこと言えちゃうわけ?ずいぶんなやつだな~。」

冷静な表情でリョウが尋ねる。

「キミには自分の居場所や大切なものがあるだろ?悪いようには言わない。はやくそんなモノ(神器)は手放したほうがいい。」

「これは遊びじゃないんだぞ・・・!(テルヒコ)」

「じゃ、どんなことをすればオッケーなわけ?ぜったい面白くやれると思うんだけどなあ。(リョウ)」

「・・・お兄ちゃん、リョウは、すっごくいい人なんだから!だから(ハナ)」

「・・・ならなおさらだ。そのリューグレイザ―についても知っているんだろう。命が惜しくないのか?
それにキミ、それをどこで手に入れた?(テルヒコ)」

「教えてやってもいいけど、あんたがそうなら・・・どーしよっかなー♪(リョウ)」

「すまない、時間をとらせたな・・・。俺はこれで失礼する。ハナちゃん、行こう。(テルヒコ)」
テルヒコはいつになく深刻な顔で、リョウから目をそらしハナの手を引こうと席を立った。

「お兄ちゃん・・・・・。なんで。(ハナ)」

「おいおい、行くのかよー!ちゃんと俺の話、考えといてくれよ!(リョウ)」

ハナの手を引いたテルヒコは立ち止まり、何とも言えない表情で言った。

「キミには君を待っている日常がある。キミを待っている人たち。その人たちを感動させたり、喜ばせるために踊っているんだろ?
なら・・・それで充分幸せじゃないか。それをなんで・・・。」

「俺とかかわったヤツは、必ず不幸になる。」

かつてテルヒコの前にライバルとして現れ、己のやり方でマガツカミと戦おうとした青のオージ(水騎龍)の存在。
クロウの手により改良がくわえられ復元された神々の神器であるリューグレイザ―は、普通の人間であったリュウの肉体を蝕み
最終的には暴走を引き起こしてしまった過去があった。

自らの親友でもあるリュウの暴走を自らの手で、その拳で止めようとしたテルヒコにとって
目の前で玩具のごとく無邪気にリューグレイザーを振り回すリョウを見て、
なるべくこの一般市民をこの物騒な件に関わらせたくないという気持ちが募るのは当然であった。

その言葉を聞いてリョウはテルヒコの背に返した。

「格好つけんなよ~。」

「あんた、そんなこと言っといてこないだ(前日)・・・捨てられた犬みたいな顔してたぜ。」

その言葉を背に受け、一人静かに肩を振るわせてテルヒコは心配そうなハナを引き連れ歩いていった。

「ッ、俺とキミは違う・・・・・・・・!」

「ごめんリョウ!あとでテルヒコ兄ちゃん説得しとくから~!またね!」

テルヒコの背中を押すハナの活発な姿を見てリョウはいつものように笑い彼らを見送った。

「まったく~。ハナも一丁前だよな。いったいどっちが大人で、どっちが子供なんだか。」

「ま、最初の最初はこういうもんだよ、な。アニキ。俺たちうまくやれると思うぜ?」

リョウは亡き兄、水騎リュウの託したリューグレイザ―に微笑み語りかけた。

その直後、イベント会場から二人の女性が慌てて飛びだしリョウのもとへやってきた。

「ちょっと!さっきの奴らが・・・・」

倒れた二人組の男。先ほどテルヒコとリョウに因縁をつけてきた男が地面にうずくまりもがき苦しんでいた。
「おーい大丈夫かー?ちょっと大げさな・・・?!」

男の首からは謎の禍々しい文字と思しき刺青のような刻印が浮かび上がった。

「なんだこりゃ・・・・」

「省吾!しっかりして!・・・・うそ、こんなタトゥ無かったのに?!もしかして・・・」

「おいミカ、そいつ・・・」

男の女友達らしき女性が首からぶら下げていたネックレスのなかから、ガラガラゴロゴロと謎の異音が響く。

「グルル・・・・・!(リューグレイザ―)」

「リューグレイザ―!どうした?!(リョウ)」

リョウのリューグレイザ―がいつにない声で唸る。その声と波動にかく乱されるように

男たちは苦しみ出し、リョウは咄嗟に男たちのペンダントを勢いよく蹴りつけた。

「きゃ、なにするのよ!・・・・・きゃーーーーっ!(女性)」

「・・・これ・・・(リョウ)」

男たちのペンダントの中に入っていたのは、醜い緑の蟲。アゲハ蝶の幼虫だった。

「俺には理解できない趣味だな~・・・あんたもそう思うだろ?(リョウ)」

リョウの隣にいたのは、先ほど立ち去ったと思われたテルヒコとハナだった。

「ああ。ちょっと待ってくれ。(テルヒコ)」

テルヒコはポケットから取り出したアマテライザーをその虫にかざすと、黄色い光が照射された。

「ユタカ、こいつの正体を教えてくれ。(テルヒコ)」

「・・・・・・・(ユタカ)」

「おい、緊急事態なんだぞ!ユタカ!(テルヒコ)」

「さっき黙っておけと言ったじゃない。・・・これは常世の神ね。間違いないわ。(ユタカ)」

「常世の神?!(テルヒコ・リョウ・ハナ)」

「日本書紀にも出た真っ赤な偽物の神よ。かつて富士川のほとりで暮らしていた大生部多(おおふべのおお)という人物が
この虫(アゲハ蝶の幼虫)を神だと謳って人々に信じさせたの。(ユタカ)」

「でも、これただのキモい虫じゃないのよ。こんなのなーんの御利益もないでしょ?(ハナ)」

そそくさと鏡に近寄りのぞき込むハナの横顔へユタカは冷静に答える。

「そもそも、ご利益目当ての人間を助ける都合のいい神などいないわ。いるとすると(ユタカ)」

「マガツカミくらいだろうな。(テルヒコ)」

いつものごとくアマテライザーからの反応に一人こたえるテルヒコ。

「その人物は大生部っていったんだよな、大生部(大生部愛理?!)・・・・・・・・!」

「これ、先生の呪いなのかな?愛理先生のペンダント・・・。省吾最近すっかり人が変わっちゃって。
彼が先生のこと信じなかったから!・・・どうしよう!(女性)」

「おいそれ、どういうことだ?!あの女占い師か?・・・やはりこれもクロウの仕掛けた作戦か!(テルヒコ)」

「ハナちゃん、そこで待っててくれ!すぐ戻る!(テルヒコ)」

きがつけば、テルヒコのアマテライザーのやりとりを眼にした事件の野次馬たちが数人群がっていた。
「すげーな、それ(鏡)いったい何?(群衆の声)」

「防犯ブザーだ!(テルヒコ)」

テルヒコはバイクにまたがり大生部がいるオーシャンムード(総合レジャー施設)まで急行した。

「・・・・・・キミもなんで?!(テルヒコ)」

テルヒコがフェニックスロードを走り抜けるさなか、隣を同時に並走していたのはリョウの青いバイクだった。

「俺たちも置いてけぼりなんてごめんだぜ。なあハナ?(リョウ)」

「そーいうこと~!(ハナ)」

「ハナちゃんまで乗ってるし・・・・事故ったらお前・・・!(テルヒコ)」

「オンロードって意外だな。ヒーローは決まってオフロードだろ~!かっとばすぜ~!(リョウ)」
(※オフロード=荒地などでも走れる走破性の高いバイク。モトクロスなどで使われる。オンロードはスピード重視の公道・レーサー用バイク)

宮崎市街近郊にある総合レジャー施設、オーシャンムード。屋内に本物の海を模したプールや
巨大アトラクション、海に映し出される立体映像などが楽しめるバブル期に建設された本県においても有数の娯楽スポットである。
2000年台中盤に経営が立ち行かなくなり解体されることが決まっていたが、奇妙なことに解体される直前に存続が決まる。

存続は決定したものの娯楽施設ではなくなり、テナントを様々な企業へと貸し出すイベントスペースとなり生き残ることとなった。
以降何年間も近隣の住人でさえもよりつかなくなるような謎のスポットとしてオーシャンムードは形を残すこととなった。

「・・・ここが大生部愛理という女のいる場所か」

「しかし誰もいないのはおかしいな、結構有名じゃないか、あのアイリとかいう人。ほら!」

リョウが取り出したスマホのyoutude動画には大生部が映っていた。

「ネットの世界でも人気なのか・・・・。(テルヒコ)」

「わたしのクラスでも好きだっていう子がいるけど、私なんだか気持ち悪いって思ってて。チャンネル登録しないでよかった~。(ハナ)」

「子供たちの中でも知られてるんだな・・・。(テルヒコ)」

「神器の反応を悟られないようこちらからは通信を切るわ。(ユタカ)」

テルヒコら三人が会場屋内に向かい階段を上ってゆくと、その扉は開け放たれていた。

「ほんとに異様だな。もし万一ということがある。ここからは俺が行く。リョウ君、キミはこの子(ハナ)を頼んだ。(テルヒコ)」

「・・・しょうがないな。わかったよ!気をつけろよ。(リョウ)」

「リョウは意外とこういうの信じちゃう方だからね!やめといたほうがいいよ。(ハナ)」

「それとこれとは関係ないでしょー!お前もお化け屋敷苦手だろ?!(リョウ)」

「あれは音が苦手なだけだよ!あんなん作りものじゃない!(ハナ)」

「・・・・それはいいが、二人ともちゃっかり俺についてきてるじゃないか・・・。(どうしよう・・・)(テルヒコ)」

真っ暗闇の室内は想像以上に狭く、バロック調の椅子に座る大生部愛理の姿がスポットライトに照らされていた。

人気占い師の開催するイベントにしてはあまりにも陰気臭く、スポットライト頭上には無数の虫たちがたかり騒がしくぶつかり合っていた。

「よくぞお越しくださいました、私の鑑定ルームへ。あなたの最も欲するところの、願いを教えてください。(愛理)」

「・・・すべての人を、一人でも多くの魂を救うこと。(テルヒコ)」

「それは素晴らしい願いです。ですがあなたの魂はあまりにも傷つき汚れ切っています。(愛理)」

「終わることのない暗闇が見える・・・・・・・・。あなたは戦い疲れ、その心は限界を迎えようとしている。(愛理)」

その頃リョウとハナは完全にテルヒコと暗闇の中はぐれてしまっていた。

「どうなってんだよここ!さすがオーシャンムードを改装しただけはあるな!ひろすぎてわかんねえ!(リョウ)」

「おーいテルヒコにいちゃ~ん!(ハナ)」

「あっ、リョウ!・・・・あれ見てよ!キャっ!(ハナ)」

「ちょっとそこで待ってろ・・・確かめてくる。(リョウ)」

「グルルるるるる・・・・・・・・・(リューグレイザ―)」

暗闇の中スポットライトに照らし映し出されていたその光景は、あまりにショッキングなものであった。

「こりゃ、人間じゃねえか・・・。」

うめき声と共にのたうち回る奇怪な姿の人間たち。1人には蝶の羽のようなものが生え、標本のように
巨大な杭で磔にされていたのである。

「うっわあきっしょ!」
無数に地面を這う虫が奇怪な姿の人間たちの周囲に蠢いていたのを見てリョウは戦慄した。

「・・・貴様・・・私のお楽しみを覗きみたな~?カァアアアーッ!」

そこはかすかに実験室か何かのようにさえ思えた。
血に濡れたメスを持ったその男、石上が暗闇の中から黒いペストマスクを揺らし現れる。

「好都合じゃん!それ相当の対戦相手がいなくっちゃあはじまんねえからな!(リョウ)」

「こんなところに丸腰で来るわけないでしょ?!(ハナ)」

すかさず自らの神器、リューグレイザ―(剣)とサクヤイザー(勾玉)を取り出したリョウとハナは石上に対し
瞬時に戦闘態勢の構えをとった。

「・・・貴様ら、いったいどういうことだぁアーっ!(石上)」

そのころ、大生部愛理と対峙するテルヒコは闇の中問答を続けていた。

「わたしには、あなたの魂が暗闇に堕ちゆくのが見える。
あなたは大切な人を失い、そしてその時の想いがあなたを駆り立てる理由になっている・・・。違いますか?(愛理)」

「あんたは俺の祖父の話をいっているのか?(テルヒコ)」

「・・・おじいさん・・・。いいえ、もっと深い記憶。・・・それよりあなたがもっと・・・・??!!(愛理)」

「もう一つ、大切な願いを言い忘れていた。(テルヒコ)」

「??!(愛理)」

「お前らのような奴らを一匹残らず祓うことだ。(テルヒコ)」

「貴様・・・・・(愛理)」

それまで赤紫の刺繍が施されたローブに身を包んでいた大生部愛理の爪が、人間ではない魔性の物へ、生々しい音を立て変化した。

「俺の過去を覗き見たようだが、ほんとに”力”はあるんだな。だが狐憑きとたいして変わらない霊力だ。(テルヒコ)」

「そんな手品、三日で聴衆に飽きられるぞ。(テルヒコ)」

「うっるさいねえ、私の言うことを聞かない人間は、みんな地獄に堕ちるんだヨォオオッ!・・・・・(愛理)」

拍手と共にどこからともなく九尾のいやったらしい透き通った声がアナウンスとなり聞こえてくる。

「不十分で申し訳ないね。キミを欺くにはそいつはあまりに捨て石すぎた。(九尾の狐)」

禍々しい極彩色に彩られたアゲハ蝶の怪物(常世蟲大アゲハ)のような姿となった愛理は、狂気の中テルヒコに襲い掛かる。

勢いよくテーブルを天井に蹴り飛ばしたテルヒコはアマテライザーを勢いよくかざし創聖する。

「創聖!(テルヒコ)」

「ソウセイセヨ・アマテライジングパワー。(アマテライザー)」

「シャイニングフィールド!」

オージが創聖された直後、放たれた光が会場全体を包みオーシャンムードのイベントホールは日中のような明かりに包まれた。

「・・・・・あれは!(テルヒコ)」
その直後、巨大な蒼い斬撃がホール天井に走り、オーシャンムードは開けっ放しの屋外プールがあった全盛期のように
天井に大きな空間が開き、空から日の光が室内に差し込んだ。

「そんなに陰気臭くっちゃあ面白くない!これで三人そろったな!ハナ、テルヒコ!(リョウ)」

「・・・リューグランサー!青のオージ!(テルヒコ)」

「おいそこのなんか変な黒い怪人(石上=カラス男のこと)みたいなやつ!ちゃんとこっち見ろ!そうそれでいい!
俺は新たな青のオージ!水神ジャスティオージだ!(リョウ)」

「そんなこと、知るカァアアアーーーッッッ!(勢いよく羽を広げ向かってくるカラス男)」

「わからせてやるぜ!タアアーーーっ!(リョウ)」

鮮やかに空中に飛びあがり回転したリョウから放たれた蹴りは、古びた室内プールの水しぶきを浴び勢いよくカラス男の
胴体に連続で炸裂した。

「ドラゴンウォーター、ミサイルキック・・・!」

ドスーン!
「決まったぜ・・・・俺が命名した必殺技第一号・・・・!(リョウ)」

「お兄ちゃん、ごめん!(ハナ)」

いきなり頭上からピンク色の光の弾が飛んできたかと思えば、テルヒコの目の前に見たことのない黒い戦士が煙を吹く桃色の長銃を抱え
立っていた。
「・・・痛!いった!(弾が一部かすめる)・・・・お兄ちゃんって、キミは・・・(テルヒコ)」

テルヒコの後ろに倒れていた大生部愛理であった“その怪物”はよろめきながら奇声を上げ天高く飛翔した。
「やるじゃんかハナ!ナイスプレーだ!(リョウ)」

「なに?!あれは、ハナちゃんなのか!(テルヒコ)」

「いや、俺はあの戦士を覚えている・・・・・・・・あれは確か・・・・(テルヒコ)」

「姫神サクヤ?!どうしてあんなところにいるの?!(ユタカ)」

「サクヤ・・・(テルヒコ)」

「いっけええええ!!(ハナ)」

ハナが姫神サクヤの長銃(ガトリング砲)、フローランチャーを連射するその気弾の中
弾をすり抜けるようにその隙を縫うコンビネーションで水神オージが彼の持つ竜王剣ドラグブレイカーで
愛理の変化した大アゲハを斬りつけてゆく。
「いくぜ兄貴。次はこいつだ!アクアスティンガー!(リョウ)」

「・・・キェエーーーッ!(愛理/大アゲハ)」

大アゲハの毒気、妖気に包まれた鱗粉がトンファー、アクアスティンガーを振るおうとしたリョウの全身をとらえた。
「ッぐあああっ!(リョウ)」

ドサッ。

地面に叩き落されるリューグランサー。
黄色い鱗粉をまき散らし空を舞う4メートルはあるであろうグロテスクな大アゲハ蝶の生々しさは、およそ美とはかけ離れたものだった。
「いたた、やっぱりこれ(アクアスティンガー)俺に向いてねーのかなー。・・・しっかしあれで蝶かよ、グロいなあ。」

「世界を滅ぼすほど欲望を吸った常世の神の真形態!(カラス男)」

「なかなかのチート兵器だ!エクセレントだよ大生部愛理!最高だ!(九尾の狐)」

「ーーーーーーーーーーー!!!!!(愛理/大アゲハ)」

急激な、常世蟲への身体変化の影響で人間としての声帯を失い声にならない失望と絶望を主張しようとする愛理。

「新しい自分に、美しい姿になりたかったんだろ?
キミが手に入れたかった欲望の全てが、その肉体に詰まってるじゃないかーハハハハハ!(九尾の狐)」

「新たなマガツカミを産みだす計画のおっぱじめとしてその女には十分働いてもらった。
その女の売りさばいたアイテムは人の精神を依り代へと封じる力があるのだ!(カラス男)」

「もっともあれはただの虫だ。常世の神なんて存在しない。(九尾の狐)」

「幸せになれる、そんなまやかしに騙されて・・・手に入ってもいつかみな消える!
すべては一時のまやかしだ!この世にそんなものなんてないんだよ!(九尾の狐)」

「ハアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!(テルヒコ)」

ビシュっ!

日神オージのアポロンソードが大アゲハの片方の羽根をかすめた。

「!!!(大アゲハ)」

「ターゲット照準。マリナーズ、スプラッシュ!(リョウ)」

水神オージの神技、マリナーズスプラッシュが大アゲハのボディに直撃し、愛理の精神にさらなる激しい混乱と動揺が起こる。

「私たちもぼさっとしていられないわ!神技を決めろ!最大出力で飛ぶわよ?!(ユタカ)」

「できるか?!(テルヒコ)」

「神器の力を試すとき。せっかく三人そろったんだからゲン担ぎよ!(ユタカ)」

時間稼ぎとばかり遠距離より大アゲハを撃ち続けるサクヤ。

「はやく!隙ができてるうちに!(ハナ)」

「うぉーーーーーーーーーーーーッッツ!(テルヒコ)」

「行け!決めろォオ!(リョウ)」

テルヒコをスラスターの出力全開で押し出していたのは水神オージ、リョウだった。

「リョウ、助かる!こいつでどうだ!(テルヒコ)」

日神オージのテラセイバーが空中の大アゲハの脳天にエクスカリバーのごとく突き刺さった。

「救世神技!サンシャインズストライク!!!諸々のマガゴト罪穢れを、祓えたまえ、清めたまえ!(テルヒコ)」

「ア゛アアア゛アア゛!!!!!!!(大アゲハ)」

舞い散る鱗粉と共にその巨大な禍々しい姿のアゲハ蝶は空の中に消失した。

「よかった!みんな大丈夫みたい。(ハナ)」

戦いが終わり、オーシャンムードの中で実験材料にされかけていた人々は
無事そのほとんどの人数が解放されたかのようだった。
だがリョウたちが見た怪物化の進んでいたであろう人間たちがその中のいったい誰であるかということを
テルヒコたちは確認することがついにはできなかった。

「くそー!あの女俺のこと騙しやがって!もうちょっとで大台に乗れるところだったのによ!(男)」

「訴えてやる!あの詐欺師!(女)」

ギャンブルのことだろうか。自らの願いが、幸福がかなわなかったことを嘆き悔しがる人々の声が聞こえた。
それまで彼女(大生部愛理)を信じていたであろう常世の神に惑わされていた人々の姿があった。

「かわいそう。みんなただ信じてついていっただけなのに。(ハナ)」

テルヒコのアマテライザーから響くユタカの声。

「ほおっておけばいいわ。あんな連中は。(ユタカ)」

「・・・?!(リョウ・ハナ)」

「だってそうじゃない。幸せになりたいという願いも、見境がなくなれば醜い欲望よ。(ユタカ)」

「ある意味、自業自得よ。(ユタカ)」

「ま、アマテライザーにそう言われちゃかたなしかもな。だけど幸せになろうとするから頑張れるってこともあるんじゃねーの?(リョウ)」

「どんな理由であっても、幸せを求める人々の想いに付け入る奴らを。クロウを俺は絶対に許さない。(テルヒコ)」

「助かったよ、二人とも。(テルヒコ)」

「礼は要らないよ。だって俺たちこれからチームってことだろ?(リョウ)」

「・・・・それは、(テルヒコ)」

その時テルヒコの心の中に一瞬自分でも気づかない感情が芽生え始めていた。

「(仲間・・・・・・。)」

「教えてくれ、ハナちゃん。そしてキミのこと。一体何者なんだ?!(テルヒコ)」

「言い忘れてたな。俺の名前は水騎リョウ。あんたがダチだった水騎リュウの弟だ。これからよろしくな!相棒。(リョウ)」
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