勇者からのプロポーズはお断りいたします。
☆☆☆

「いや、無理」
 と言い出したのはユリアナ。一歩下がる。

「どうしてだい? ユリアナ。僕と、結婚して欲しい。平和になったこの世界で、僕と家庭を築いて欲しい」
 クリスが一歩近づく。

「だから、無理」
 ユリアナはまた一歩下がる。

 一般的に結婚に憧れを抱いている女性であれば、こんな美少年から結婚を申し込まれたら舞い上がることだろう。
 でも無理なものは無理。

「理由を聞かせてもらってもいいかな」

「ごめん。他に好きな人ができるから、多分」
 今はいないけど、多分これから他に好きな人ができるはず。

「え?」

 そりゃ、驚くよね。普通、驚くよね。誰がどう考えても勇者と聖女は結婚すると思うよね。
 だって、そういうエンディングだもん。

「だからクリスはヒロインと結婚して! あっちはクリスのこと大好きだから」

 ユリアナはヒロインという謎の言葉を残すと、クリスに背中を向けて走り出した。

 誰だよ、このゲームの続きを考えた奴。しかもよりによって恋愛シミュレーションとかにするんじゃないよ。どう考えてもクリス人気にのっかったんじゃないかよ、とユリアナは思う。

 このゲームでやはり女性層から人気が出たクリスとルッツ。それに便乗して、続きものというよりも派生形ゲームになるのだが、この二人を登場させた恋愛シミュレーションゲームが発売されてしまった。
 見事に聖女は蚊帳の外。主人公と呼ばれるヒロインが、まずは聖女からクリスを奪って結婚するというルート。これが王道ルート。あとは他のルートでルッツなり新キャラなりを攻略していく。

 えげつない。売れればなんでもいいのか。

 そして、ユリアナがなぜこんなことを知っているのかと言うと。

 彼女は今流行りの転生者。ばっちりゲームの世界に転生してしまったらしい。しかも派生ゲームまでプレイしていたものだから、この聖女の行く末を知っている。

 せっかく魔王を倒したんだからハピエンにしてよ、と思わずにはいられない。とりあえず今できることは、この勇者からのプロポーズを断ること。ということで全力疾走。からの転移魔法。とにかく、勇者から逃げる。

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