勇者からのプロポーズはお断りいたします。
「違います、違います」
 ユリアナは顔の前で両方の手のひらを振った。
「魔王に、会いに来ただけです」

「ニャンと」
 ニャンとくんは猫から人の姿へと変えた。十歳くらいの男の子。

「会いに来たってどういうことかニャ?」
 人型になっても語尾はニャのままか。

「あの。具合はどうかな、って。クリス、手加減しなかったから。ちょっと気になって」

 ニャンとくんは、顎に右手を当てながら、値踏みするかのようにユリアナの顔を眺める。

「嘘をついているようには見えないニャ。どういう風の吹き回しだニャ? 聖女は勇者と結婚するんじゃなかったのかニャ? 世の中、その噂で盛り上がっているはずだニャ」

 こんな次元の違う魔王城にまで噂が届くとは。噂とは恐ろしい。

「それは噂ですよね。私、そのプロポーズを断りましたから」

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