君は冬の夜に咲いた【完】
毎日毎日、私に愛の言葉を伝えてくれる恋人。

本当にこんなにも幸せでいいのかな?って思う時がある。



「行こっか、そろそろ着替えないと」


お昼ご飯を食べ終えたあと、乙和くんが荷物を持ちながらベンチから立ち上がった。

私も乙和くんを追うように、鞄を持ちゆっくり立ち上がろうとした時だった。

乙和くんの手が、私の手を握ろうとしてきたから。

いつものように乙和くんの手に手を伸ばし、繋ごうとした時──…


「はる?!」


と、大きく私の方に、乙和くんが振り返ったのは。目を見開き、まるですごく驚いたように私の事を見る乙和くんに、私まで驚いて。


「ど、どうしたの?」


いきなりの乙和くんの異変に、吃りながら答えると、次の瞬間にはホッとしたような表情に変わった。


なに?
私はそう思って顔を傾けた。
何か驚く事があったのだろうか?
そう思って立ち上がった足などを見ても、何も無くて。


「あ、…ごめん、」


どうしてか謝ってきた乙和くんは、安心した表情をしながら今度こそ私の手を握った。


「どうかしたの?」


そう聞きながら、乙和くんと校舎内に戻る。


「ううん、なんでもないよ」


なんでもない?
それなのに、あんなにも驚いたの?


「でも、すごく驚いてなかった?」

「なんか、一瞬はるが消えたように見えただけ」


消えた?
私が?
ずっと乙和くんのそばにいたのに?


「そうなの?」

「うん、いや、消えたって言うか、はるがいたのは分かったんだけど…」

「?」

「手を伸ばして、手を繋ごうとしたのに、なくて…あれ?みたいな」

「ごめん、私が急に立ち上がったからだね…」

「違う違う!俺が悪い、──…驚かせてごめん」


少し笑った乙和くんは、私の手を強く握った。


「行こう」


その力は、いつもより強く。



この時の私はまだ気づいていなかった。

乙和くんの異変に。
ううん、サインは前から出ていたのに。
私に、初めて話しかけてくれた頃から。



もしかすると、乙和くんはこの時から〝おかしい〟と思っていたのかもしれない…。
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