君は冬の夜に咲いた【完】
大好きな恋人の声なのに、その声は違和感だらけで。いつも通りの声なのに、その声は少しかさついていた。


「乙和くん…」


乙和くんの名前を呟くと、向こうから少しだけ声が止まり。


『…ごめん、連絡できなくて』

「……ううん、体調大丈夫?」

『うん…』

「心配したよ、…返事こないから…」

『ごめん……』


乙和くんの声は、止まった。
何も言わなくなった。
けれども電話は繋がっていて。
これから何を言おうか迷ってるらしい彼。


だから「乙和くん」ともう一度名前を呼んだ。けれども彼の声は聞こえない。

聞こえたのは、いつか。


『……別れてほしい……』


と、乙和くんの悲しそうな声が聞こえたのは。



胸が苦しくなる。
心のどこかで〝やっぱり〟っていう気持ちがあったのか、それほど驚くことは無かった。

けれども〝どうして〟っていう気持ちが9割以上あって。


どうしてそんなこというの?
どうして嘘をつくの?
どうして私には言えないの?


どうして?


「…私のこと、きらいになったから?」

『…はる…』

「きらいになっちゃった…?」

『……うん、……』


うそつき…。
乙和くんは、〝きらい〟と言えない優しい人だって知ってるのに。


「どうして…、どこが嫌だった…?」


乙和くんの声が聞こえない…。


「なにがあったの…」

『ごめん…』

「私が、かわいくないから…?」

『……』

「めがねだから…?」

『……ごめん』

「……乙和くん」

『…はる…』

「別れたくないよ……」

『ごめん……』

「どうして…」

『……』


息が飲む音が聞こえた。
〝乙和くんが泣いている〟
そんな気がして。



「大好きだよ…乙和くん」



いつの間にか電話は切れていた。

気づけば私もポロポロと涙が流れていた。


通話が切れる前、『…大丈夫か乙和』と、小山くんの声が聞こえたような気がした。
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