君は冬の夜に咲いた【完】
苦恋
乙和くんと別れてから数ヶ月が過ぎた。
もう夏も終わり、秋も終盤。
別れた次の日から、私は乙和くんにノートを貸さなくなった。
いつも乙和くんは、小山くんにノートを借りてるらしい。
この前、クラスと女の子が乙和くんに「私のノート貸そうか?」と言っているのを聞いた。
けれども乙和くんはそれを断っていた。
たくさんの人からモテる乙和くんが、彼女を作ったという噂も流れることはなく。
それは何故なのか。
まだ私を想ってくれているからなのか、分からない…。
だけどあの日以来、乙和くんとは目が合わなくなっていた。
乙和くんと別れてから、周辺に変化があったのは、すぐだった。女の子からは「どうして別れたの?」って聞かれた。
違うクラスの男の子から「ばいばい」など、「連絡先おしえて」と話しかけられるようになった。
数ヶ月たった今はもう少ないけど、今日は久しぶりに「あ、今帰りなの? 校門まで一緒に行かない?」と、まったく関わりのない男の子から話しかけられ、1人で帰るのがほとんどなのに「友達と帰るので…」と嘘をついた。
「そっか残念、また今度誘うね」と、離れていく彼にため息をつく。
そんな光景を見て、「モテるな〜小町さん」と私に話しかけてきたのは、小山くんだった。
モテる、私が?
そんなわけない…。
「さっきの晃こうだろ?」
こう?
「結構モテるよ?あいつも」
「…あんまりよく知らないから…」
「……最近、よく小町さんの名前聞くわ。可愛いって。なんか垢抜けたって感じ、なんつーの清楚系?」
「そんな事ないから…」
「そんなことあると思うけど」
「…小山くん」
「乙和と別れてから、雰囲気変わったから」
変わった?
「普通に可愛いし」
へらりと笑う小山くんは、いつもと変わらなかった。
「たぶん、乙和と付き合ってたから余計に絡んでくるんだと思う」
乙和くんと付き合ってたから?
それを聞いて、なるほどと思った。
ようするにブランド…。
「そっか、」と静かに笑うと、「じゃあ、また明日。ばいばい」と小山くんは帰って行った。
乙和くんとは同じクラスだから会うけれど、お互いが喋りかけることは無くなかった。
まるで、乙和くんと出会う前に戻ったみたいだった。
晃という生徒から話しかけられたのは、翌日のこと。違うクラスなのにわざわざ私のクラスまで来た彼は、「おはよう小町さん」と、手を振ってくる。
…なに?
座っている私のところに来た彼は、「今日こそ一緒に帰れる?」と尋ねてくる。
昨日、断ったはずの彼。
教室の中には乙和くんと小山くんもいて。
別れた乙和くんに見られたくなくて、視線を下げた。
「ごめんなさい…今日も、」
「じゃあ明日は?つか、お昼は?弁当一緒に食わね?」
にっこりと笑う、黒髪のその人。
目の下にホクロがあるのが印象的だった。
小山くんの言う通り、モテる容姿をしていて。
「友達と食べるので…」
「じゃあ土日」
「あの…」
「つか、いつ暇?バイトとかしてる?」
「…」
「明日の放課後、一緒に帰れるってことでいい?」
晃という男の子は、戸惑う私に「じゃあ明日迎えに来るね」と、その場を離れようとするから呆然としてしまう。
勝手に決まってしまった約束…。
「ちょっと、さっきのひと、狭川さがわくんだよ!はる、知り合いだったの?」
と、友達に話しかけられも。
私は乙和くんのことで頭がいっぱいだった。
私の方を見ていない乙和くんに、さっきの声は届いていたのだろうか。