君は冬の夜に咲いた【完】
──…私は弱い人間だった。
乙和くんの持つ病気を受け入れる受け入れないのではなく、乙和くんが死んでしまうかもしれないということが怖かった。


ベンチには、狭川くんだけが座っていた。ベンチから死角になるよう、草むらの中に座って隠れている私は本当に弱い人間…。


こそこそ隠れるなんて、してはいけない。
本当ならまっすぐ乙和くんの顔を見て聞かなきゃいけないのに。

私はぎゅっと自身の鞄を抱きしめた。



乙和くんが来たのは、連絡を入れて1時間ほどした頃だった。草の隙間から見える乙和くんは制服のまま。
歩いてきたらしい乙和くんは、「なに、呼び出して」と、ゆっくり歩いてくる。

2メートルほどの距離をあけ、立ち止まった乙和くん。私は乙和くんの背中しか見えなかった。
だから乙和くんがどんな顔をしているのか分からなくて。


「…乙和に報告があって」

「うん」

「俺、はるちゃんと付き合うことになったから」


笑っていなく、真剣な表情で嘘をついた狭川くん。嘘をつくとは言っていた。だけどどうしてそんな嘘を…。


「…それは同意の元?」


乙和くんの声はやけに静かだった。


「同意だよ。…はるちゃんまだ乙和のこと好きみたいで。けど慰めたら、心開いてくれて。さっき付き合った」

「晃…、晃は俺の事ではるに近づいたのは分かってる。前に言ったけど、中途半端な気持ちではるには関わらないでほしい」

「確かに中途半端だった、けど、はるちゃんっていい子じゃん。さすが乙和と付き合ってたっていうか…、普通に好きになった…。俺が守りたいって思った」

「……」

「いいよな?乙和。俺が本気なら付き合っても」

「…晃…」

「もうお前、はるちゃんと関係ねぇんだから」


乙和くんは、静かだった。


「……晃が本気なら、俺は何も言わない」


乙和くんの、顔が見えない。


「乙和」

「…大事にして欲しい、はるは本当にいい子だから」

「…いい子なのに、なんで手放したんだよ」

「…」

「マジで俺が貰っていいのかよ?返さねぇぞ」


ベンチから立ち上がった狭川くんは、立ったまま動かない乙和くんの方に向かう。

そのまま「乙和」と低い声を出した狭川くんは、乙和くんの胸ぐらを掴んだ。


「お前、好きな女をとられてまで、言いたくねぇの?」


顔を近づかせた彼は、どこからどう見ても怒っていて。


「惚れた女を、幸せにしたくねぇのかよ…」


ゆっくりと胸ぐらを話した狭川くんは、「…はるちゃん泣いてたぞ」と、呟く。
それに反応した乙和くんが、軽く、顔をあげた。


「これからも泣かせるのはお前で、笑わせるのが俺の役目でいいの?」

「…」

「なあ、」

「…」

「乙和」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…──そんな顔するなら、別れなかったら良かったのに……」


私からは、乙和くんの表情は、まったく見えなくて。
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