君は冬の夜に咲いた【完】
狭川くんの言ってる〝そんな顔〟が見えないけど。
乙和くんが「無理なんだよ…」と、呟いたその声に、私は咄嗟に口元を抑えた。
今にも泣きそうで苦しそうな声は、別れたあの日と同じようなトーンだったから。



「…なにが無理?」


聞き出そうとする彼…。


「俺ははるを幸せにできない…」

「なんで」

「晃も分かってるだろ…」

「…体、悪いこと?…分かってるよ、それでも生きてるだろ」

「…」

「乙和」

「…」


視線を下げ、目元に手を置いた乙和くんに、「 頭か…?」と、不安げに呟いた。


「腫瘍とか、あるのか?腫瘍なら取れるだろ?」

「…」

「乙和…」



沈黙が流れた。
雰囲気が、暗く。
私が1呼吸でもすれば、私がいる事がバレそうなほど…深い沈黙だった。


「頭じゃない…死ぬ病気とか、そんなんじゃない」

「…だったら、なんで言えない…?死ぬ病気じゃないなら…」



耳を塞ぎたい。
塞いでしまいたい。



「……いずれ失明するんだってさ、この目」



乙和くんが、私と別れた理由…。



「5割ぐらいの遺伝で…、子供にうつるらしい」



子供が沢山欲しいと言っていた乙和…。



別れた日、あんなにも泣きながら、私の顔を目に焼き付けた理由は……。



〝もっと見せて〟



見えなくなってしまうから。




「……──ッ、…はるに言えるわけないだろ!!」
< 26 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop