君は冬の夜に咲いた【完】
乙和くんの心の叫びは、胸の奥まで突き刺さった。

乙和くんの目が見えなくなる…?
いずれ失明する?


「明日、見えなくなるかもしれない、それなのにどうやってはるを笑わせるんだよ!! 守れもしない!!」


両手で顔を隠した乙和くんから、カチャ…と、色の入った眼鏡が落ちた。
割れるような音も耳に届く。


「子供にも遺伝する、…ッ、もし妊娠したらどうする?失明するかもしれない子供を産んでくれなんて言えるわけないだろ!!」



叫ぶ乙和くんの肩に触れる狭川くんは、乙和くんの名前を呼んだ。


「今のうちに点字を覚えろって言われた俺の気持ちが晃に分かんのかよ!!」

「…とわ、」

「白杖なんかいらねぇよ!!」

「…」

「みんな〝なんでなんで〟ばっか聞いてきやがって…」

「…と、」

「はるの字が見えなくなるの…、どれだけ辛いか晃に分かんのかよ……」




口元をおさえていた私の手のひらに、冷たい何かが零れていく。

抑えきれない涙が、どんどん溢れ出していく。



とわくん……。



とわくん、


とわくん


とわくん、


とわ……。



「はるのこと…大事にしてくれ………」

「とわ…」

「いまのこと、絶対、はるには内緒に…」



鞄を捨て、走り出し。

さっきまで散々、弱くてごめんなさいと謝罪していたくせに。


大好きな人の背中に走って、抱きつき。
絶対絶対離さないと、腕を回す。


何が起こったか分かってない愛しい人は、「は、」と、弱々しい声を出した。



盗み聞きしてごめんなさい。
私には絶対、知られたくなかったはずなのに。
弱くて、盗み聞きして、ごめんなさい…。


「はる…」


私が後ろから抱きしめているから、私の顔は見えないはずなのに。誰が抱きしめてるか分かるらしい乙和くんは、「……なんでいるの」と、弱い声を出した。


乙和くんが私の腕に触れる。
だけど私は絶対に離さなかった。



代わりに私は何度も乙和くんに「だいすき…」と言い続けた。

「やめて…」と私を拒絶する乙和くんに、「だいすき」と言い返す。


「……はる…」

「弱くてごめんなさい…」

「はる」

「だいすき…」

「……やめよう、はる」

「もう、絶対離れないから……──」
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