君は冬の夜に咲いた【完】
ゴーデンウィークがあけても、私と早川乙和くんの関係は変わらなかった。
「小町さん」と、私の名前を呼ぶ早川乙和くんは今日もかっこいい。
早川乙和くんはノートの時だけ私に関わってくる。朝はたまに「おはよう」と言われる事はあるけど、その他の時間は友達と一緒にいることが多い。
派手なグループの一員である早川乙和くんとはと昼だって共にした事がないし、ましてや一緒に遊んだことだってない。
そんなかっこいい彼は、友達らしい人からは「乙和」って呼ばれていた。
友達でもなく、ノートを貸しているだけの私は、「早川くん」。
「ごめんね、毎回借りて」
「ううん」
「あ、今日はチョコの大福買ってきました!」
ニコニコと笑う彼は、小さくて丸いお饅頭みたいなものを、いつものように私にくれた。
受け取り「ありがとう」と笑う私に、「そのチョコ美味しんだよ」と、早川乙和くんがノートを受け取る。
チョコ系のお餅は大好きだから、食べるの楽しみだなあと思っていると、「小町さんさ?」と早川乙和くんが私に話しかけてきて。
「今更だけど、彼氏とかいたりする?」
「え?」
「やっぱまずいじゃん?いたら。俺の彼女なのに〜!って」
そんな、彼氏なんて…。
地味で可愛くないのに。
生まれてこの方、いた事がないのに。
「い、いないよ、」
顔を横にふれば、ふ、と笑った彼。
「そっか、なら良かった」
「いるわけないよ、可愛くないし…」
「そう?小町さん可愛いと思うけど」
「え!?」
「普通に小さいし、女の子って感じ」
そんな事、言われたことがなく。
確かに私は小さい。
身長は152センチ。
けれども……。それは体型だけでは?
「早川くんこそ…、彼女とか…」
早川乙和くんの言葉に照れて頬が赤くなっていたから、少しだけ顔を下に向けた。
「いないいない、3年なる前に別れたし」
「…そうなの?」
「うん、今は募集中」
「…」
「ってか、乙和でいいよ?早川くんって長くない?」
「…そうかな…?」
「早川くんってのも、新鮮でいいけど」
次の日、早川乙和くんは私の事を「おはよう、はる」と下の名前で呼んできた。
それに対して、あまり男の免疫がない私はドキドキしっぱなしで。
私が彼の事を「乙和くん」って呼べば、「おお君付け、それも新鮮」って笑っていた。
「乙和〜、お前また小町さんから借りてんのかよ〜」
休み時間、乙和くんが私の歴史のノートを写しているとき、そう声をかけてきたのは乙和くんと一番仲がいい小山勇心くんだった。
「そー」
「俺の見せてやろっか?」
「お前のは字じゃない」
「誰がミミズ字だ」
「勇心、ほぼ寝ながら書いてるもんな」
「起きてるわ、……ふーん、確かに見やすいな。俺もこんど貸して貰お」
「だーめ、これは俺専用だもん」
俺専用…。
「はあ?」
「な、はるちゃん」
乙和くんが、いきなり話しかけてきて。
また頬を赤く染めてしまう…。
「え、…?」
「別に付き合ってもねぇじゃん?」
「はるぽんのノートは俺のなんだわ」
「ふうん?」
「見たかったら、俺の貸すわ」