君は冬の夜に咲いた【完】
回復することは無い…。

1度、無くなった視野は…。

視野が狭くなっていく病気……。

失明してしまう病気…。


乙和くんは、落ち着いた声でつげる。


その病名を。


〝網膜色素変性症〟


1回だけでは、覚えられないほど難しい呼び名。


「指定難病なんだってさ」


指定難病……。
乙和くんは、笑っていた。


「さっきもいったけど、50パー遺伝の病気。けど身内に同じ病気のやつはいないから…。俺の場合は遺伝じゃないみたいだけど…よく分かんね……」



子供が好きな乙和くん。
自分の子供と、キャッチボールをしたいと、言っていた…。


「目がもし、ずっと見えていても、はるを傷つけるのは分からない……。俺ははるに、家族を作ってあげられない…」


家族を作れない…。


「……はる?」


優しく頭を撫で続ける、大好きな人…。


「はるは俺といると、ずっと泣く羽目になるよ?」


泣く羽目に…。


「それでもはるはいいの?」


それでも、私は……


顔をゆっくりとあげ、乙和くんを見つめた。別れる時、ずっと私の顔を、焼き付け、忘れないように見ていた男……。


いいって言ったら、乙和くんは迷惑をかけると言って、否定するんだろうな…。


「…とわくんは、」

「うん」

「とわくん、」

「うん」

「いま、話してくれたから…」

「…うん」

「わたし、とわくんと、向き合っていいの?」

「はる…」

「ずっとそばにいてもいいの……?」

「……」

「もう、壁はなくなったって、思っていいの…?」



なくなったのなら…。

乙和くんが、私を受け入れてくれたのなら。


「…ずっと一緒にいるよ、当たり前だよ…」


だから。


「私がもう、乙和くんを泣かせない…」
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