君は冬の夜に咲いた【完】
歩いていた乙和くんの足がぴたりと止まった。
自動的に、私の足も止まる。

乙和くんの指先が、私の頬に触れた。
その指先に力を入れ、ゆっくりと私顔は上へと向けさせられる。
優しい大好きな乙和くんと目が合う。


今の乙和くんの目に、私はどう写っているんだろうか?乙和くんの視野に、私の全ては写っているんだろうか?


「約束してほしい」


約束…
それはとても、真剣な声だった。


「嫌って思ったら、すぐに教えて。1人で抱え込まないで欲しい」

「…乙和くん」

「好きでも、嫌だったら言って」

「…」

「耐えられないって思ったらすぐに言って…」


耐えられない…。

乙和くんが失明し、私が耐えられなくなったら。もう乙和くんの傍にいたいと思わなくなったら。

そんなの、絶対ないのに…。
どこまでも私のことを思ってくれる優しい恋人。


「…うん、わかった…」


私の言葉にほっとした顔をした乙和くんは、そのまま頭を撫でてきたから。愛おしくなり、乙和くんの胸元に顔を埋める。


「そのかわり、私とも約束して……」


繋がれている手を、強く握った。


「私を思って、別れた方がいいって、言わないで…」

「…」

「思っても、言わないでね…」

「はる……」

「私が耐えられないって思ったら、約束通り、乙和くんに伝えるから…」



乙和くんは「わかった、約束する」と、そのままゆっくりと私を抱きしめた。



目が見なくなっても、私は乙和くんが大好きだよ。

きっと私は、乙和くんだから。

乙和くんだからこそ、目が見えなくなっていく乙和くんも好きになる…。



目が見えなくなっても、乙和くんは、私の大好きな乙和くんなのだから。
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