君は冬の夜に咲いた【完】
乙和くんは、日常生活はあまり困らないと言っていた。確かに〝見えにくい〟ことはあるけど、まだ視野は1割しか狭くなっていないとの事だった。

乙和くんは私を思って〝1割しか狭くなっていない〟って言ったのだと思った。
きっと本当の心は、〝1割も狭くなってる〟なのに。

心を開いてくれたとはいえ、やっぱりまだ、私に遠慮している…。



「はるの字、好きだな…」


乙和くんにぽつりと言われたのは、乙和くんの部屋でテスト勉強をしている時だった。
教科書をみていたはずの乙和くんは、いつの間にか私の手元を見ていたらしくて。


それ、聞くの何回目だろうとクスクスと笑った。いつもいつも、字を見やすく、好きと言ってくれる。


私の持っているシャーペンの芯が濃くなく、字も大きめでなければ、初めの頃「プリント見せてくれない?」と言ってこなかったんだろうな…と、少し思ってしまった。


「それいつも言ってくれるね?」


笑いながら乙和くんを見ると、穏やかに笑っている乙和くんと目が合った。唯一、自室にいる時だけ色つきの眼鏡を外している乙和くんの目の下は、ほんのりと青くなっていた。


こうしてよりを戻す前は、いつも、色つきの眼鏡をかけていたからクマがあったことを気づけなかった。
痩せていたのは分かっていたのに。


夜、眠れていないらしい…。


乙和くんはクマが出来ている理由を言わない。私もどうしてクマあるの?なんて聞かない。

だって、分かるから。

寝て、目を開ければ、真っ暗だったらどうしようって……。恐怖が、襲ってくる…。
それでも眠気は来るみたいで、眠れていない乙和くんはたまにウトウト…とする時がある。


眠れていない乙和くんを寝かせた方がいいのか。起こした方がいいのか、分からなくて。


それでも体調が悪くなってはいけないから、乙和くんがウトウトとした時は声をかけないでいた。


乙和くんが起きて、私の顔を見れば、ホッと安心した顔つきをする。
そんな乙和くんを抱き締めれば、「…見えてるよ、ありがとう」と、愛おしそうに私の頭を撫でてくれた。


そんな乙和くんに、「…あのね?」と、とあることを提案してみた。


〝早く明日になってほしい〟


乙和くんがそう思ってくれる、提案を。
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