君は冬の夜に咲いた【完】
2人っきりで、乙和くんとお昼を食べている最中だった。
「とわぁ!」
と、小山くんの声が届いたのは。
ぴくりと反応した乙和くんは、校舎内にいる小山くんの方を見た。
乙和くんに向かって大きく手をふっている小山くんは、もう一度「乙和!小町さ〜ん!
」と呼んできて。
「なにー?」
と、もう半分ほどお昼を食べている乙和くんは大きな声で返事をする。
「今日の体育、男は、運動場に変更だってさ〜!女子が体育館!」
どうやら内容は、5時間目の体育の場所が変更らしくて。
わざわざそれを言いに来てくれた小山くんに乙和くんは「りょ〜かい〜」と、手をふった。
私にも、言いに来てくれたらしい小山くん。
「野球だってさー」
「分かった〜、ありがとー」
小山くんは校舎内に消えていき、乙和くんは少しテンション高めに「やった、野球だって」と、また1口とご飯を口の中に入れた。
「優しいね、小山くん。言いに来てくれたんだね」
私にも。
「うん、勇心はすげぇ良い奴だから」
本当に嬉しそうな乙和くんは、本当に小山くんが好きなのだと思い。
「野球好きなの?」
「うん、小さい頃リトルやってたから、それなりにできるよ」
「そうなの?すごいね」
「今はもうやってないけどね、たまに勇心の弟と、近所の子と遊んでる」
「小山くん、弟さんいるの?」
「いるよ、キャッチボールとか。投げ方教えてる」
ふふ、と笑った乙和くんは、「俺、一人っ子だから。兄弟とか凄い憧れる。結構、子供好きだから」と、私を見つめながら言う。
誰からも好かれる乙和くんは、小さい子からも好かれるらしく。
「だから将来、自分の子供とキャッチボールするのが夢だったりするかな」
自分の子供…。
「はるが弁当作ってくれて、それ持ってみんなで公園行って、俺と子供がキャッチボールして。男でも女の子でも、2人は欲しいな…。はるの子は可愛いんだろうな…」
それって…。
将来のことを思い描く乙和くん。
恥ずかしくなりながら、「乙和くんがかっこいいからだよ……」と頬を染めた。
私の言葉に、嬉しそうに、綻ばせた乙和くんは「でも、その前に沢山デートしようね」と、食べる手を止めて、私の手を握った。
「うん」
「花火大会、行こうね」
「うん」
「はるの浴衣姿、見たいな」
「うん、着ていくね」
「秋は遠出して…土日挟んで」
「うん」
「冬はイルミネーションな」
「うん、楽しみだなぁ…」
「想像するだけで、めっちゃ幸せだわ」
本当に幸せそうにする乙和くんは、「はる、大好きだよ」と甘い言葉を呟いた。