太陽に魅せられて
「先週渡した進路希望の提出
今月末までだからなー忘れんなよー」

今日のホームルームが終わろうとしていた頃

先生が発したその一言で

静かだった教室が急にざわつき始めた


進路が決まっていないと悲嘆する人

進学先が同じだったとキャッキャと喜ぶ人々

進路の事で親と喧嘩したと何故か自慢気に話す人

皆先生の次の言葉を待とうともせずに

思いの丈を話し出す




「進路」と言う一言に対して

それぞれがそれぞれの気持ちを持っていることが

今の空気に顕著に現れている








「ねーねー、ミホはさ、進学先決めてんの?」






隣の席の小柴君もそのうちの一人




「うん、なんとなくだけどね」

「やっぱそーだよなー」

「小柴君はもう決めてるの?」

「うん、おれもなんとなく、な」

「そっか」と私が返した後

少しの沈黙を挟んで

小柴君は椅子の後ろ2本の脚を支点に

天井を見ながら脱力したように

ゆらゆらとしだした


「あーあ、大人になったらただ社会の歯車として生きていくだけたんだろうなー
ずっと今のままでいてえー」






不安定ながらも

絶妙なバランスを保っている椅子が

危ないという気持ちより

小柴君の発した「社会の歯車」という言葉が

昨日の店長の熱い姿を見たばかりの

今の私にはとてつもなく引っかかった


「社会の歯車…」

「そー、なんかそんな感じしねぇ?
毎日同じ時間に起きて毎日同じ事して。
だから俺、大学行ったら社会の歯車から脱却するために芸人養成所にでも行こっかなーなんて(笑)」「良いと思う」

「え?」

「何かやりたいと思える事があるのって、凄くいいと思う」

「お、おう。ありがと」




私にはやりたいことなんて無い

大学に行ったって今と何も変わらない

ただ社会の歯車となるための

準備期間でしかないんだ


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