歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
これはいったい、何が起こっているの?

状況がよく飲み込めなかったけれど、私はいま北原くんの腕の中にいる。
目を閉じると、なんだかホッとする。

あったかい・・・とっても。癒される気がする。

そーっと顔を上げると、やっぱり真っ赤な顔をしていた。
私のために、無理してるよね?


「あの・・・北原くん、もう大丈夫だよ」

「・・・」

「あの・・・ほんとに、もう」

「大丈夫じゃないから」

「え?」

「僕が大丈夫じゃないから、もう少し・・・」

「うん」


どうしたのかな、何が大丈夫じゃないんだろう・・・。

ホッとしていたのもつかの間、今度はドキドキしてきた。
こんなふうにしてもらったことが無くて、慣れていないからかもしれない。

離れるタイミングが無い・・・。
このまま、腕の中にいていいのかな。

その時、北原くんの上着のポケットが震えて、お互いに離れた。
お店の外に出たから、電話が掛かってきたのかもしれない。

さっき家を出たばかりで、お花を買ってそのまま帰るのもどうかと思い、私も外に出た。

北原くんは電話中で、かといって何も言わずにその場を離れるのも気が引けて、少し離れたところで電話が終わるのを待っていた。


「原田さん、今日休んだ?」

「うん、なんだかいろいろあり過ぎて、いつもの時間に起きれなかった」

「・・・飛行機、見に行きます?」

「え?」

「すごい近くで見れるとこあって」


気遣ってくれているのだ。
あんなところで、人目も気にせず泣いてたから。


「せっかくだから、行こうかな」

「ぜひ」

「あ、でも、こんな格好でいい? 完全に近所の散歩みたいな感じだけど」

「その方が、お互い浮かなくて済むかな」


確かに。

私はオーバーサイズのシャツに、チェックのロングスカート、そしてスニーカー。
北原くんは、Tシャツにチェックの上着、デニムにスニーカーだった。


「じゃあ行きますか」

「あれ? お見舞い行かなくていいの?」

「夕方に変更します」

「そっか、じゃあ」


駅まで並んで歩いたものの、お互い何も話さなかった。
無理に話さなくても・・・みたいな空気感が伝わって、気が楽だった。

電車に乗って、空港近くの公園に向かった。
ぼんやりと外の景色を見ていると、私の右肩に、北原くんの頭が乗った。
スースーと寝息が聞こえる。

考えてみたら、このシチュエーションは何だろう。
まったく、想像もしていなかった。

休みの日を一緒に過ごすのは、中谷さんなのかと思っていたから。
ガタンと電車が揺れて、北原くんの頭が私の肩からずれた。
それで目が覚めたのだろうか。


「原田さん」

「ん?」

「あの人、原田さんの彼氏ですか?」

「ああ、こないだの税理士さんのこと?」

「そう」

「違うけど。どうして?」

「話しかけられた時、目が笑ってなかった。だから、もしかして・・・って」

「そうなんだ」

「何歳くらいですか?」

「37かな」

「37・・・」

「どうしたの?」

「15年後とか、俺は何してるんだろうなって思って。5年後だって想像つかないのに・・・」


ずっと『僕』だった北原くんが『俺』と口にした。
たったそれだけのことなのに、なんだかキュンとした。

15年後、彼といる未来の可能性は、ほんの少しだけでもあったりするんだろうか・・・。

ふと、そんなことを考えた。
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