歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
「うわぁーーー、すごいねーーー」


自分の真上を離発着する飛行機を見ながら、私は声をあげた。
こんなに間近で、飛行機を見たのは初めてだった。


「原田さん、どこか飛行機で行きたいところある?」


真上の飛行機を見上げたまま、北原くんは言った。


「そうだなー、ヨーロッパがいいかな」

「イギリスとか?」

「イギリスは行ったことあるから、フランスとか、ベルギーとか」

「イギリス、行ったことあるんだ」

「2年前くらいに。兄が住んでて」

「へぇ、いいなぁ。フランスとベルギーか・・・どっちも強いな」

「ん? 何が?」

「サッカー」


そうだ、北原くんはサッカー選手だったんだ。
ヨーロッパといえば、日本のプロ選手が何人も挑戦しているのを、ニュースで見たことがあった。


「そっか、サッカーでヨーロッパ行きたかったの?」

「夢だった。いつか・・・って」


寂しそうに笑う横顔に、なんだか胸がギュッとなって、思わず言った。


「今度、一緒に行く?」

「え?」

「一緒に・・・」

「・・・行こうかな」

「うん・・・」


私たちの真上を、ちょうどエールフランス機が横切った。


「あれ乗ったら、フランス行ける?」

「そうだね、行けるよ」

「一緒に行ってくれるなら、パスポート持って来れば良かった」

「え? 今日?」

「今日」

「どうして?」

「だって今日逃したら、もう一緒に行けない気がするから」


そんなこと無いよ、とは言えなかった。

北原くんの1年後、2年後、3年後・・・そこに、私がいない確率の方が高い。
確かに今日なら、何かの間違いだったとしても、勢いで一緒に行けたかもしれない。

なんてね・・・。


「俺、嬉しかった。一緒に行くって言ってくれて」

「・・・」

「ひとりで行くの、怖いから」

「何言ってるの、大丈夫だよ」

「約束してよ」

「え?」

「俺と一緒に行くって、約束して」


可能性なんて、ほとんど無いと分かっているけれど、言い出したのは私だから。


「いいよ」

「ほんと?」

「うん」

「やった!」


・・・私はまた、北原くんの腕の中に収まっていた。

あったかくて、効き目があり過ぎる。
カラカラの心が、今日でずいぶんと潤った気がした。


「この薬、すごい効き目」

「でしょ?」

「・・・うん」

「何があったの?」

「え?」

「あの人でしょ」

「うん、まぁ・・・」

「でも、いまは俺だから」

「ん?」

「原田さんと一緒にいるの、俺だから」


腕に、少しだけ力が入った。
私もそっと、背中に手を回した。
何だか、急にそうしたくなって。

私、中谷さんに付き合って欲しいって、結婚も考えてるって言われたんだよね。

だけど、それがどこかに行ってしまうほど、北原くんの腕の中は、あったかくて満たされる・・・。
理由なんて無くて、感覚でそう思う。


「今日が、ずっと続けばいいのにな」


その言葉を聞いて顔を上げると、目が合った。
キュンとして、思わず目を伏せた。
ドキドキする。


「俺・・・原田さんのこと好きになってもいい?」

「・・・ダメだって言ったら、どうするの?」

「多分もう、どうにもできない」


私たちは、どちらが先か分からないほど、自然にキスをした。
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