歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
「瑛美ちゃん、ちょっと来て」


社長が難しい顔で私を呼んだ。


「何でしょう?」

「瑛美ちゃん、何日か前に納めた年金のシュミレーション表なんだけど」

「はい」

「間違いがかなり多いって、クレームが来てる」


差し出された書類を受け取り、何枚かめくる。
自分でやっておきながら、これはひどい・・・。


「申し訳ありません」

「これ、結構あるけど今日中に全部直せるかな。明日、朝イチで俺が持って行くから」

「はい、必ず。私も明日謝罪に・・・」

「いや、今回は俺ひとりで。上手く話してくるから大丈夫だ」

「・・・ありがとうございます」


情けない。

やり慣れた難しくもない業務を、こんなに間違うなんて。
あの日・・・だ。夜に何度も計算をやり直した時だ。
意地になってやらずに、朝すっきりした頭でやれば良かった。

間違えた書類を眺めながら、何とも言えない気持ちでデスクに戻った。

ざっと、20件くらいはある。
今から始めて終わるのは・・・真夜中で済むだろうか。

アシスタントさんに緊急の用件以外は全て断ってもらうように伝え、会議室にこもった。
書類を分類し、間違えた箇所と理由を書き込んでから1枚ずつ計算し直した。

5枚ほど終わったところで、ひと息ついた。

あの夜、どうして私はあんなに混乱したんだろう。
中谷さんに結婚も考えてるって言われたからなのか、それとも『別の男』が近くにいるのが気に入らないって言われたのが、引っ掛かったからなのか。

考え始めると手が止まる。
このままじゃ、また同じ間違いをしてしまいそうだ。集中しなきゃ。

コンコンコン。
会議室のドアをノックする音がした。


「こんにちは」


顔を出したのは、中谷さんだった。


「中谷さん・・・今日、ミーティングの日でしたっけ?」

「いや、今日は広瀬社長に書類を持ってきたんだ。そしたら、原田さんが会議室に詰めてるって聞いて」

「・・・そうなんです。シュミレーション、間違えてしまって。明日の朝までに全部修正しないといけないので」

「え、ここにあるの全部?」

「はい」


中谷さんはテーブルに並べてある書類を一通り見て回り、そのうちの8枚ほどをピックアップした。


「あの・・・中谷さん?」

「この8枚は俺がやった方が早い。例えて言うなら、原田さんが1枚やってる間に、俺なら4枚終わる」

「えー! それは早い」

「お昼食べてきたら? 空腹のままじゃ頭も回らなくなって、夜までもたないよ」

「でも・・・やってもらうわけには・・・」

「貸し、ひとつね」

「貸し?」

「そう。今度何かで返してもらうからさ」


早く行って!と、私を会議室から追い出した。
中谷さんだってお昼休みなのに申し訳ない・・・。
オフィス近くのお蕎麦屋さんに入り、注文したご飯が出てくるのをぼんやりと待った。

ふと、考えた。

中谷さんの優しさは、いつもさりげない。
相手に負担を感じさせないと言うか、意識させずに、何気ない感じで対応してくれるのだ。
大人、なんだ。

私は、北原くんのまっすぐな想いと、中谷さんの大人の優しさの間で、なんだか複雑な気持ちになっていた。

どうしてだろうか・・・。
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