歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
私にとって大切なものは何なのだろう。

キュンとする恋愛か、安定した生活・・・か。
おそらく、10歳若かったら絶対に恋愛を選んだと思う。

じゃあ5歳若かったら? じゃあ今なら?

年齢的にも現実味が増してくるし、誰もが安定した生活を選べと言うに決まっている。

そして、相手も変わっていくのだということ。
より変化が大きいのは、北原くんの方だ。

これからどんどん変わっていく北原くんのそばに、私がいるなんてあっていいのだろうか。

あの日、仕事を休んだ日。
北原くんが誘ってくれて、一緒に飛行機を見て、ぎゅっとしてくれて、好きになってもいいかって聞かれて、キスして・・・。

思い出すだけで、胸が切なくなる。

私にとって大切なもの・・・オフィスへの帰り道、そのフレーズを頭の中で繰り返していた。

あれ?

会議室の前で、中谷さんと北原くんが話しているのが見えた。

そっとドアを開けたからか、ちょうど影になったからか、私が帰ったことにふたりとも気付いていないようだ。


「北原くんも、原田さんが好きなんだろ?」

「・・・」

「聞くまでもないか。俺も、原田さんが好きなんだ」

「・・・分かってます」

「北原くんは、原田さんに何ができる?」

「え?」

「俺なら、今日みたいに仕事をサポートしたり、結婚したら、生活もサポートできるかなと思ってる」

「僕は・・・これといって何も」

「・・・だとしたら、原田さんのことは諦めてほしい。こんなこと言うのも変だけど、俺、北原くんが原田さんの近くにいるだけで、本当は面白くないんだ」

「そんなこと・・・言われても」

「原田さんが北原くんを男として見てる以上、歳の差も関係無いし、学生とか税理士とか、そんなのもどうだっていい。ただ俺を選んでほしい・・・それだけだよ」


静かにオフィスを出た。

ひとまず外に出て自動販売機で飲み物を買い、何も聞かなかった前提でオフィスに戻った。


「戻りました」

「あ、おかえり原田さん。8枚終わったよ」

「本当に? 見ていいですか?」

「もちろん。チェックしてみて」

「はい」


すごい・・・本当に全部終わっている。
何箇所か電卓で確かめてみたけれど、完璧だった。


「ありがとうございます。残りの分を考えれば、夜10時くらいには終わりそう」

「それなら良かった。あまり遅くなると、帰りが心配だから」

「あの、中谷さん。本当にありがとうございました」

「いえいえ、貸しひとつだからね」

「分かってます」

「それじゃ、残り頑張って」

「はい」


オフィスの外まで中谷さんを見送って、私は会議室に戻った。
もちろんフロアにいた北原くんは視界に入ったけれど、今は、書類を優先しようと思った。

そうしないと、もし話をしてしまったら、気持ちがあふれて仕事にならない気がした。

北原くんにだって、北原くんにしかできないことがある。
私の心を潤いでいっぱいにできるのは、北原くんの優しさだけだから。

本当は、今すぐにそう言いたかった。


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