歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
彩からの帰り道、私は北原くんに電話を掛けた。


「もしもし? 原田さん珍しいね、電話してくるの」

「うん、何してた?」

「今? 英語の勉強」

「そうなんだ、エライね」

「どうしたの? そんなこと聞くために電話してきたんじゃないよね?」


会いたくて。
会いに行きたくて。
会いに行ってもいい?って聞きたくて。

でも、言葉にならない。
いまさらだけど、断られるのが怖い。
会いたいと思うのは、私だけかもしれない。
今までが、上手くいっていただけかもしれない。


「あの・・・北原くん」

「うん」

「ごめん、やっぱりいい。何でもない」

「・・・大丈夫だよ」

「え?」

「俺がそっち行こうか? それとも、原田さんこっち来る?」


北原くんは、勘がいいんだろうか。
ひと言も気持ちを言葉にできていないのに、なぜ私の言いたいことが分かるんだろうか。


「私が行く。近くに何か目印ある?」


指定された場所に着いて辺りを見渡すと、もう北原くんがそこにいた。


「そろそろ着く頃かなと思って」


私はその言葉を聞くなり、北原くんの腕の中に飛び込んだ。

自分の気持ちを上手く説明できなくて、でも一緒にいたいという気持ちを表すのに、他の方法を思いつかなかったから。

北原くんは驚いたのか、一瞬身体を固くしたけれど、何も言わずに私をそのままで居させてくれた。

『ずっと一緒にいたい』

そのひと言が言えない。

その言葉の持つ重みを改めて考えると、余計に言えなくなってしまう。
私がそのひと言を口にすることで、北原くんの負担になりたくない。


「今夜は、何も話したくない夜なのかな」


何も言わず、ずっと抱きついたまま黙っている私に、北原くんはそう言って苦笑いした。

ハッとした。
私、自分のことしか考えてない・・・。


「ごめん、やっぱり帰るね」

北原くんから離れて、帰ろうとした。


「えっ、どうして?」

「・・・何も、言えそうにないから」

「いいよ、それでも」

「え?」

「それでもいいから帰らないで。帰ったら、もう次は無いかもしれない」

「次は・・・無い?」

「何も言えないのは、言いづらいことがあるからだよね? 次はもっと言いづらくなる。そしたら、もうこんなふうに会えない気がして」


もしかして、怖いのは北原くんも同じ・・・?


「北原くん、私が何を言おうとしてるか分かるの?」

「分からないよ。分からないけど、原田さんいつもと違う感じだし、聞くのが怖い」

「・・・」

「だって、普通に考えたらありえないよね。俺のこと、好きになるとか」


そう、私も同じことを考えている。
普通に考えたらありえない。

北原くんが、私と、ずっと一緒にいたいと思ってくれるなんて。


「苦しい」


思わずつぶやいた。


「誰かを好きになるのって、幸せなはずなのに苦しいね。だけど、止められない」


そこまで口にしたら、一気に肩の力が抜けた。
北原くんの顔を、真っ直ぐに見て言った。


「北原くんに会いたくて来たの」

「え?」

「どうしても会いたくて、ここに来たの」


それを聞いた北原くんの表情が硬い。
言葉も無い。

そうだよね・・・。


「そんなの、嘘でしょ?」


え? 北原くん、今なんて?


「そんなこと、あるわけない・・・俺の『好き』に付き合ってくれてるだけでしょ?」


どういうこと?


「俺が『好きになっていい?』って言ったから、『ずっと一緒にいる』って言ったから、それに合わせてくれてるんでしょ?」


北原くん・・・まさか泣いてる?

自分のことで頭がいっぱいで、北原くんの抱えている気持ちに全く気付いていなかった自分に、絶望した。
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