歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
何度かインターホンを鳴らしたけれど、颯太は家にいないようだった。

どこに行ったの・・・?

電話にも出ないし、メッセージの返信も無い。
どこだろう、颯太の行きそうなところ・・・。

あ、もしかして、もう行くことはないと言っていた、あの場所だろうか。


「多分、この方角で合ってるはずだけど・・・あ、あった!」


開いているスタジアムの入り口を見つけ、階段を登りスタンドに出た。
がらんとした観客席を見渡すと、少し離れたところで颯太がベンチに座っていた。


「颯太!」


ここは、颯太がケガをしたスタジアムだ。
いつだったか、最寄駅を通過した時に話してくれたことがあった。


「瑛美さん、どうしてここだって分かったの?」

「もしかしたら・・・って思っただけ。いなかったら、別の場所も考えたよ」

「そっか」

「颯太、ひとりにしてごめん」

「え?」

「大事な時にひとりにして、ごめんなさい」

「瑛美さん・・・」

「私・・・何もできないって思った。だから、どうしていいか分からなくて、ひとりにした。でも、颯太言ってたよね? 何かしてほしいとか、そういうことじゃなくて、一緒にいてくれたら嬉しいって」

「うん」

「私、大事なことなのに忘れてた」


その時、偶然だけれど。
颯太の真後ろに太陽が傾いて、颯太が輝いて見えた。
ああ、この場所は、颯太が輝く場所なんだ・・・。

サッカーの神様は、颯太を見放してなんかいないんだ。
兄とすれ違った颯太のために、ちゃんと私との出会いを・・・。

ふふ、と思わず笑いが出た。


「瑛美さん?」

「ねぇ、颯太。颯太は、サッカーの神様に見放されてないよ。だから、大丈夫だよ」

「え?」

「大丈夫だよ」

「・・・瑛美さん、お願いがあるんだけど」

「うん」

「手術が終わるまででいいから、やっぱり一緒にイギリスに行ってほしい。その先は、ひとりで頑張るから・・・」

「いいよ。約束、したもんね」

「いいの? 本当に?」

「うん、いいよ」


颯太の瞳から、涙がこぼれ落ちた。


「ね、知ってる? こういう時に効く薬のこと」


颯太をベンチに座らせてから、そっと抱きしめた。


「・・・この薬って、こんな感じなんだ」

「え? 知らなかったの?」

「だって、してもらったの初めてだから」

「えー? 私に、よく効くって」

「あれは、瑛美さんを抱きしめたかったから、そう言っただけだよ」


もう! 私は腕に力をこめた。


「わ、わ、苦しい。ごめんごめん」

「お仕置きのキス」


キスの後、目を開けた颯太が私を見上げて言った。


「瑛美さん、あのさ・・・」

「うん」

「瑛美さんはこの先、俺とどのくらい一緒にいてくれる?」

「ん-、ずっと?」

「ずっと? それって、いつまで?」

「颯太が、もういいって言うまで」

「そしたら・・・本当にずっとだよ?」

「うん、いいよ」


少し落ち着いたのか、颯太は立ち上がって空を見ながら言った。


「なんか俺、すごい幸せ」

「えー?」

「敦弘さんがイギリスから俺を探しに来てくれるとか、もしかした可能性があるって言ってくれるとか」

「うん」

「瑛美さんが一緒にイギリスに行ってくれるとか、ずっと俺と一緒に・・・って言ってくれたりとか」

「うん」

「幸せなことしか、無いと思わない?」


私の方を見て、嬉しそうに笑った。
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