歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
兄の手配が思いのほか早く、私たちは2週間後にイギリスに向かうことになった。

どうやら兄は颯太を『ヒロの義弟』として、あちこちねじ込んでもらったらしい。
思いがけないところで瑛美が役に立ったと笑っていた。


「じゃ、先に帰って準備してるから。颯太も瑛美も気を付けて来いよ」

「はい。よろしくお願いします」


兄と結子さんは、ひと足先にイギリスに向かった。

ふたりを見送り、そのまま颯太の引越し準備を手伝うことにした。
リハビリが長引くだろうからと、一度部屋を引き払うことになっていた。


「イギリスに持って行く分は、ひろくんの家に送って・・・残りは私の家でいいよね?」

「・・・本当にいいのかな。何から何まで、敦弘さんと瑛美さんに助けてもらって」

「いいんじゃない? ひろくん、弟ができたって喜んでたよ」

「だといいんだけど」

「あと・・・すぐに颯太を診てやれなかったから、その分を返すって言ってたかな」

「それ、敦弘さんのせいじゃないのに・・・」

「でも、ひろくんそういう人だから。甘えてあげて。ね?」


イギリスに出発するまでの数日間、颯太はいろいろな手続きに回り、私は10日間の休暇のために仕事を詰め込んでいた。


「原田さん、来週イギリス行くんだって?」

「中谷さん、情報早い! 社長に聞いたんですか?」

「うん、さっきね。引き継ぎが間に合わないって嘆いてた」

「えー、それ嘘ですよ。私、何も残してないです」

「アハハハハ。何かあったら社長のフォローするから、心配しないで行ってきて」

「はい。助かります」

「彼、良くなるといいね・・・」

「本当に」


私は休暇のために仕事を片付けつつ、いずれ必要になる引き継ぎ資料も整えていた。
そう・・・退職することを決めていた。


「瑛美ちゃん、最近引き継ぎ資料作ってるよね。採用した時に助かるけど、もしかして・・・」

「あー、分かっちゃいました? さすが社長!」

「おいおい、本当かよ。困るよー」

「もう少し時間ありますから、大丈夫ですよ。採用、頑張りましょ!」


私は、颯太の手術が終わって一度帰国したら、その1か月後にまた渡英する計画を立てている。
それは一時的に会いに行くのではなく・・・。

颯太は、まだその事を知らない。



イギリスに到着した当日から、精密検査がいくつも続いた。
それでも颯太は疲れも見せず、現地スタッフの説明に耳を傾けていた。

そして予定通り、手術の日を迎えた。


「颯太、そろそろ時間だけど・・・大丈夫か?」


手術着を着た兄が、颯太が乗った車椅子を押しながら話しかけている。


「もうここまで来たら、あとは敦弘さんにお任せするだけです」

「でも・・・怖いだろ」

「・・・はい」

「全力を尽くすよ。約束する。颯太にも、瑛美にも」

「はい」

「じゃ、瑛美はここまで。相当時間かかるから、終わったらすぐ連絡するよ。結子と家で待ってて」

「うん。よろしくお願いします」

「あの、敦弘さん、ちょっとだけ時間もらえますか?」

「いいよ、じゃ3分な」


そう言って、兄は通りがかりの医師と話し始めた。


「瑛美さん、ちょっと来て」

「ん、どうしたの?」

「ね、キスして。長いやつ」

「え、いま?」

「ここイギリスだから。恥ずかしくないって」


キスの後、颯太のひと言に私は涙が止まらなかった。


「瑛美さん、俺と出会ってくれて本当にありがとう。行ってきます」
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