歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
「瑛美、手術終わった。すぐ病院来れる?」

「え、すぐ?」

「颯太が瑛美を呼んでるんだ」


兄から電話があり、結子さんの車で急いで病院へ向かった。
病室に入ると、颯太は青ざめた顔をしてまだ眠っているように見えた。


「痛み止めでウトウトしてるけど、声掛けてやって」

「うん。颯太、颯太」

「・・・瑛美・・・」

「颯太、頑張ったね。ずっとそばにいるから。ね?」

「・・・うん」


颯太は私の顔を見て少し落ち着いたのか、再び目を閉じて、今度は眠りについたようだった。


「瑛美、ちょっといいか?」


兄に呼ばれて、病室から出た。


「ひろくん、颯太どう?」

「うん・・・だいたい見立て通りだったし、手術も上手くいったと思う。あとは颯太次第だ」

「そうなんだ・・・ひとまず良かった。ありがとう」

「・・・本当に辛いのは、これからだけどな。最初の1ヶ月は、前回のリハビリとそんなに変わらない。まずは歩けるようにならないと、話にならないからさ」

「うん」

「ただ、問題はその後だ。走れるようになるのか、ボールが蹴れるようになるのか。思うように身体は動いてくれないから、精神的に相当キツイだろうな」

「・・・」

「瑛美?」

「ね、ひろくん。私、会社辞めてイギリスに来ようと思ってる」

「え?」

「ずっと、颯太のそばにいようと思って」

「瑛美・・・本当にいいのか? 仕事、頑張ってたろ」

「うん。でも、いい」

「・・・そんなに好きなのか、颯太のこと」

「そうみたい」


手術が終わって数日が過ぎ、颯太の具合が落ち着いたところで、私は日本に帰国することにした。


「颯太」


病室のドアを開けて、颯太に声を掛ける。
私に気付いた颯太は、ベッドに肘を立てて上半身を起こした。


「瑛美、今日は雨だから来なくても良かったのに」

「うん・・・でも、明日日本に帰るから」

「え、明日?」

「・・・うん」

「そっか・・・」

「また、来るから」

「また? それって・・・」


それっていつ?
多分、颯太はそう言いたかったのだと思う。

でも『いつ?』の一言が、お互いを苦しめることになると分かっているのだ。

そのタイミングに期待してしまう颯太と、縛られる私。
約束を守れなければ、どちらも不幸だ。


「瑛美、一緒にイギリスに来てくれて、本当にありがとう」


そう言って、颯太は窓の外を見た。


「颯太?」

「・・・なんか、他にもいろいろ言いたい言葉はあるんだけど、多分どれ言っても、瑛美を困らせるだけだから」


それは、私も同じだった。
イギリスに残る颯太に、どんな言葉を掛けたらいいのだろうと考えていた。


「大好きだよ、颯太」

「え?」

「大好きだよ・・・」

「瑛美、どうして泣くの?」


颯太を残して帰ることを思うと、何を言っても涙が出てくる。
きっと一番辛い時に、ひとりにしてしまうのだろうから。


「ほら、泣かないで。ね?」

「・・・うん」

「俺、大丈夫だから」

「え?」

「それよりさ、新しい約束してよ」

「新しい約束?」

「毎日、連絡してもいい? 時差が9時間だから・・・こっちが12時で日本が21時。それまでには、仕事終わらせて必ず家に帰ってよ。テレビ電話だからね」


明るく言った颯太の目にも、やっぱり涙が浮かんでいた。
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