歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
日本に帰国して、すぐに再び渡英するための準備を始めた。
退職の手続きやマンションの引渡しなどを全て済ませた日も、いつも通り21時に颯太から連絡が来た。
「瑛美、今日はどうだった?」
毎日話していると、調子のいい日もあれば、あまり良くない日もある。
それでも、必ず話をした。
「颯太は、リハビリどうだった?」
私も、毎日聞いた。
全てを知ることはできなくても、微妙な表情が読み取れないことがあっても、毎日顔を合わせているだけで、伝わることもあったから。
「じゃ、瑛美また明日」
「うん、またね」
パソコンの画面を閉じた後、私はスーツケースを開けて中身を再確認した。
今夜、イギリスに向けて出発する。
深夜のロンドン便に乗るため、私はタクシーで空港に向かった。
颯太はまだ知らない。
明日の朝、颯太が目を覚ます頃には、私がイギリスに着くことを---。
1ヶ月ぶりのイギリスは雨だった。
空港から病院に向かう途中、傘をさして歩道をゆっくり歩いている人がいた。
あの後ろ姿・・・もしかして。
急いでタクシーを停めて支払いを済ませ、その人に近づいた。
「颯太?」
私の声に立ち止まり、こちらを振り返ったのは、やっぱり颯太だった。
「えっ、瑛美? どうして? え?」
驚いている颯太の傘に入り、颯太がバランスを崩して倒れないようにそっと抱きついた。
「颯太と一緒にいたくて、イギリスに住むことにした」
「え? 住むって・・・仕事は? 辞めたの?」
「うん。辞めた」
「そんな・・・どうして・・・」
「だから、一緒にいたくて」
「瑛美・・・」
「ね、颯太、再会のキスしてもいい?」
「え? あ、うん」
少し痩せたように見える颯太は、何度も瞬きをしながら言った。
「まだ信じられないけど・・・夢じゃないよね?」
「ほっぺつねってみようか?」
「アハハハ」
颯太は、退院してから兄の家にいたのだけれど、私がイギリスに移ったのを機に、近くのフラット(日本でいうマンション)を借りた。
私は、現地で医師のマネジメント業務をしている結子さんの会社に入社し、仕事をしながら颯太のリハビリに付き添うことにした。
国によって仕組みの違いはあっても、年金や税金、相続なんかの知識を活かせる場面があり、頑張ってきて良かったと思った。
「瑛美ちゃん、こっちでも資格取ったら? スクール代、経費で出すわよ!」
結子さんはとてもパワフルで、兄や他の医師たちのマネジメントだけでなく、颯太や私を細やかにバックアップしてくれた。
「瑛美、毎日リハビリ付き合ってもらって、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。半分はオフィスで、半分はリモートワークで対応できるから、リハビリの待ち時間とか家でやらせてもらってる」
「そうなんだ」
「うん。ただ・・・」
「ただ?」
「颯太は、私がいつも一緒で平気なのかな? 実はひとりで帰りたいとか、そんな日だってあるんじゃない?」
そうだなぁ、と颯太が遠い目をした。
「上手くいかなくて、やり切れない日だけはひとりで帰るかもしれないけど・・・」
「うん、その時は言ってね」
「多分、そんな日は無いよ」
だって俺と瑛美は、ふたりでひとつなんだからさ。
照れ隠しなのか、私の方を見ずにつぶやいた。
退職の手続きやマンションの引渡しなどを全て済ませた日も、いつも通り21時に颯太から連絡が来た。
「瑛美、今日はどうだった?」
毎日話していると、調子のいい日もあれば、あまり良くない日もある。
それでも、必ず話をした。
「颯太は、リハビリどうだった?」
私も、毎日聞いた。
全てを知ることはできなくても、微妙な表情が読み取れないことがあっても、毎日顔を合わせているだけで、伝わることもあったから。
「じゃ、瑛美また明日」
「うん、またね」
パソコンの画面を閉じた後、私はスーツケースを開けて中身を再確認した。
今夜、イギリスに向けて出発する。
深夜のロンドン便に乗るため、私はタクシーで空港に向かった。
颯太はまだ知らない。
明日の朝、颯太が目を覚ます頃には、私がイギリスに着くことを---。
1ヶ月ぶりのイギリスは雨だった。
空港から病院に向かう途中、傘をさして歩道をゆっくり歩いている人がいた。
あの後ろ姿・・・もしかして。
急いでタクシーを停めて支払いを済ませ、その人に近づいた。
「颯太?」
私の声に立ち止まり、こちらを振り返ったのは、やっぱり颯太だった。
「えっ、瑛美? どうして? え?」
驚いている颯太の傘に入り、颯太がバランスを崩して倒れないようにそっと抱きついた。
「颯太と一緒にいたくて、イギリスに住むことにした」
「え? 住むって・・・仕事は? 辞めたの?」
「うん。辞めた」
「そんな・・・どうして・・・」
「だから、一緒にいたくて」
「瑛美・・・」
「ね、颯太、再会のキスしてもいい?」
「え? あ、うん」
少し痩せたように見える颯太は、何度も瞬きをしながら言った。
「まだ信じられないけど・・・夢じゃないよね?」
「ほっぺつねってみようか?」
「アハハハ」
颯太は、退院してから兄の家にいたのだけれど、私がイギリスに移ったのを機に、近くのフラット(日本でいうマンション)を借りた。
私は、現地で医師のマネジメント業務をしている結子さんの会社に入社し、仕事をしながら颯太のリハビリに付き添うことにした。
国によって仕組みの違いはあっても、年金や税金、相続なんかの知識を活かせる場面があり、頑張ってきて良かったと思った。
「瑛美ちゃん、こっちでも資格取ったら? スクール代、経費で出すわよ!」
結子さんはとてもパワフルで、兄や他の医師たちのマネジメントだけでなく、颯太や私を細やかにバックアップしてくれた。
「瑛美、毎日リハビリ付き合ってもらって、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。半分はオフィスで、半分はリモートワークで対応できるから、リハビリの待ち時間とか家でやらせてもらってる」
「そうなんだ」
「うん。ただ・・・」
「ただ?」
「颯太は、私がいつも一緒で平気なのかな? 実はひとりで帰りたいとか、そんな日だってあるんじゃない?」
そうだなぁ、と颯太が遠い目をした。
「上手くいかなくて、やり切れない日だけはひとりで帰るかもしれないけど・・・」
「うん、その時は言ってね」
「多分、そんな日は無いよ」
だって俺と瑛美は、ふたりでひとつなんだからさ。
照れ隠しなのか、私の方を見ずにつぶやいた。