歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~

6.エピローグ

颯太のリハビリは、兄も驚くほどのスピードで進み、少しずつだけれど、走ったりボールに触れたりするまでになっていた。

サッカーができる可能性が出てきたから、イメージを膨らませておきたい・・・と、兄のツテでチケットを手に入れて、プレミアリーグの試合を見に行ったりすることもあった。

ただひたむきに毎日リハビリと向き合い、上手くいかなかった日も、声を荒げたりすることさえ無かった。


「颯太、相変わらず頑張ってるな」

「あ、ひろくん」


リハビリルームの前を通りかかった兄が、颯太を見て、私に声を掛けてくれた。


「あいつ、すごいよ。ほんとなら、人やモノに八つ当たりするようなことがあってもおかしくないし、実際にそんなプロ選手だって何人も見てきたからさ」

「ひろくんも、八つ当たりされた?」

「されたなんてもんじゃないぞ〜。結構ひどい言われ方したり」

「そうなんだ」

「颯太は、分かってるんだな」

「何を?」

「向き合うべき相手は、常に自分自身だってことをさ」

「うん・・・そうだね」



1年後。

私たちはロンドン郊外にある、とあるサッカークラブチームのホームスタジアムにいた。

有名なプレミアリーグを1部リーグとすれば、そこから8つ下の8部リーグで、9部から下はアマチュアリーグだから、プロリーグの最下層チームのひとつだ。


「ソータ! 気持ちの準備はいいかい?」

「いやぁ、完全にナーバスだよ・・・」


チームのマネージャーに声を掛けられて、颯太が思わず弱音を吐く。


「本当? ソータにはいつもエミがそばにいるんだから、ナーバスになることなんて無いだろ? さぁ、そろそろ着替えて! 時間だよ」

「OK。分かった、いま行くよ」


颯太は入団テストをクリアして、2週間前にこのチームの一員となった。
そして、今日がいよいよ初戦なのだ。


「あー、どうしよ。瑛美、緊張してきた」

「大丈夫? 何か飲む?」


いつだったか、私たちはこんな会話をした。


『そっか、サッカーでヨーロッパ行きたかったの?』

『夢だった。いつか・・・って』


サッカー選手として評価されてヨーロッパに渡る夢は、いつしか、現地に住む無名の選手としてサッカーをする現実に変わった。


「瑛美、俺、一番下からプレミア目指すから。ずっと見ててよ」

「もちろん! 颯太がもういいって言うまで一緒にいるって、約束したからね」

「・・・ふぅ。瑛美、どう?」


チームのユニホームに着替えた颯太を初めて見た。


「ヤバイよ颯太・・・カッコよすぎ・・・」


涙があふれて、颯太が見えなくなった。


「瑛美〜、感動しすぎだぞ」

「だって・・・」


颯太は笑って、私の頭をポンポンとなでた。


「ね、瑛美。そろそろ行くから、いつものアレ」

「うん、おまじないのキスね」

「ん・・・」


今日も最後まで、颯太が自由に走れますように。


「じゃ、行って来る!」




<おわり>

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