歳の差 ～１５歳年下男子は、恋愛対象ですか？～

「原田さん、お待たせ」

「あ、中谷さん」

「・・・」

「中谷さん、どうかしました？」


中谷さんは横を向いて視線をそらし、言おうとした言葉を留めたように見えた。


「中谷さん？」

「あ、いや、その・・・。あんまり大人の女性に言う言葉じゃないと思って引っ込めたんですけど・・・」

「何ですか？」

「原田さん、かわいいです」

「はい？」

「髪の毛おろすと、かわいいです・・・」


このシチュエーションで『ありがとう』と言えないところが、私の残念なところ。
何とも受け取り下手というか、そういうキャラじゃないというか。


「普段、かわいくないですよね〜。いつも細かくてすみません」

「あ、それはそれですよ。助かってます」


甘い雰囲気を、つい自分からはぐらかしてしまう。
男の人の多い職場で、サラッと接するのに慣れてしまったのかな。


「さ、お店行きましょうか」

「はい。お腹すきました」

「それは良かった。中華・・・天心とか好きですか？」

「あー、大好きです！」

「アハハ」


デートといっても、ふたりの共通の話題は仕事の話で、逆にそれ以外は何を話せばいいのか迷った。
下手にプライベートに踏み込むこともできず、お互いに会話の距離を探りながら話をしていた。


「あの・・・原田さん」

「はい」

「今日は、無理言ってすみませんでした・・・一度、原田さんとゆっくり話してみたくて、彩の奥さんにお願いしたのは私なんです」

「そうだったんですか？　聖美さんからは、自分がお膳立てしたって」

「多分そう言ったら、原田さんが断らないと思ったからですよ」

「私・・・中谷さんに直接誘われたとしても、断らなかったです」

「え？」


中谷さんの顔から作り笑いが消えた。
そして、中谷さんは目の前にあるグラスの紹興酒をグイッと飲んだ。


「私・・・いや、俺、離婚してるじゃないですか。だから、恋愛とか結婚から離れてたんです。また失敗したら、とか、また誰かを不幸にしたら、とか考えちゃって」

「・・・はい」

「特に原田さんは仕事仲間でもあるわけだから、気まずくなったらいろいろ困るだろうし」

「それはそうですけど・・・」

「でも・・・今日こんなふうに会ってみて、やっぱり原田さんのこといいなって思うし、髪の毛おろしたところもかわいかったし、一緒にご飯食べたら楽しかったし・・・」

「あ、あの、中谷さん？」

「あー、もう何て言ったらいいか分からなくなってきた〜」


そう言って、中谷さんは勢いでグラスのお酒を一気に空けた。


「あーーー！　中谷さん、紹興酒って日本酒より強いお酒ですよ。ゆっくり飲むお酒なのに・・・さっきから一気に飲んで、大丈夫ですか？」

「どうしよう、なんか身体が熱くなってきた・・・」


私は苦笑いしつつ、店員さんにタクシーを呼んでもらった。
お店の支払いをしてタクシーを待つ間、私に『かわいい』と言ってくれた、中谷さんの真っ赤な顔をしばらく眺めていた。
私相手に、こんなになるまで頑張らなくて良かったのに・・・。


「また誘ってください。今度は一気飲みも、私のオゴリもナシですよ！」


到着したタクシーに中谷さんを押し込みながら、私は言った。
そして、次回はもうちょっと打ち解けて話せるといいな・・・と、期待を込めてドアを閉めた。