歳の差 ~15歳年下男子は、恋愛対象ですか?~
「北原くん、いらっしゃい。今日は・・・待ち合わせかな?」

「はい」


ご主人が声を掛けた。
常連さんなのかな、北原くん・・・ていうんだ。
彼はテーブル席の大学生に混ざり、話をし始めた。


「ごめん、遅くなって。シューカツどう?」

「いまその話してたところ。結構大変だよ、特に面接がね」

「北原はどうするんだ? これから」

「俺・・・は、まぁいまさら遅いかもしれないけど、始めようかと思ってるところ」

「そっか。何かあったら声掛けてよ。情報まわすよ」

「サンキュ」


北原くんは大学生で、シューカツする学年だと、3年生か4年生あたりかな。
ちょっと訳アリで、乗り遅れた感じか。

・・・って、やだ私ったら、完全に聞き耳立ててるよね。いけないいけない。

その時、彼がこちらを向いた。
私は慌ててカウンターの方を向き直したけれど、バレたかな・・・。
そんな私を見てか、聖美さんが話しかけてきた。


「北原くん、カッコいいよね」

「聖美さん、ご存知なんですか?」

「うん、何度かご飯食べに来てくれて。彼、普段はシャイな感じなんだけど、サッカーしてる時は別人みたいにアグレッシブなんだって」

「へぇ、サッカーやってるんですか」

「そう、それもね、結構すごいらしいんだけど、怪我しちゃったんだって。それで、第一線でプレーするのは難しくなったみたい」


そうか、サッカーだ。思い出した。

前にオフィスにいたアシスタントさんがサッカー好きで、何度か動画を見せられたことがあったんだ・・・。
どこかで見たことがあると思ったのは、それだったのか。

瑛美さんの好きなタイプだから見てください、って言われて。そうか、あの子か。

気付かれないようにもう一度振り返ったつもりが、彼もこちらを見ていて目が合ってしまった。
さっきは私が目をそらしたけれど、今度は彼が目を伏せた。


「あら、北原くんは瑛美ちゃんが好みのタイプなのかしら」

「やだ、からかわないでくださいよ〜」

「私、本当に瑛美ちゃんには恋愛して欲しいのよ。瑛美ちゃん美人さんなのに、仕事だけなんて勿体ないもの」

「聖美さん・・・」

「中谷さんでも北原くんでも、もちろん他の人でも。幸せになって欲しいな」


他のお客さんに呼ばれて聖美さんがカウンターを離れると、入れ替わりでご主人に声を掛けられた。


「瑛美ちゃん、修から聞いたと思うけど、来週からのアルバイトのことよろしく頼むね」

「はい、聞いてます。私の仕事を少し手伝ってもらおうと思って、いま準備してます」

「そうか、修に厳しくされたらって心配したけど、瑛美ちゃんなら安心だよ」


じゃまたね、とご主人は調理台に戻り、私も帰ることにした。
お会計を済ませてお店の外に出ると、後ろから声を掛けられた。


「原田さん」


この声・・・中谷さんだ。


「中谷さん、どうして?」

「あの、広瀬社長に原田さんのこと聞いたら、多分ここだって言われて・・・」

「もしかして、何か急ぎの用件ですか?」


中谷さんは首を横に振った。


「あの、俺、どうでもいいところで意地張ってて・・・。遅くなって、ほんとごめん!」
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