婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「あの……やっぱりいいです。すみません、間違いでした。うちには池は必要ないようですので、前言撤回します」

 レイ様が歩みをピタッと止めました。

「ここから先は足元が暗くなるから気をつけて」

「? はい」

 納得してくださったのよね? この話はお終いよね?

「やっぱり、これが安全かな」

 という間に、体が宙に浮いて抱きかかえられていました。何度目かのパターン。これも外せないシチュエーションなのでしょうか。

「レイ様、歩けますから。私は子供ではありませんよ」

 お姫様抱っこされながら抵抗しますが、レイ様には全然響いていない様子で、ずんずんと歩いて行きます。

「池の件はあとでゆっくり話そうか? 訪問の日にちも決めないといけないしね」

「ですから、前言撤回といいましたよ。レイ様、聞いてください」

 私お断りしましたよね? どこで言葉の使い方を間違ったのかしら?

「だから、あとでね。今は二人で蛍を見ようね」

 そんな、そんな、にっこりと微笑みかけられましても……

 どうしましょう。

 レイ様の前では、うっかりとはいえ、うかつなことを言えないと悟った夜でした。
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