婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
「もしかしたら、こんな貴重な木は他にはないと思うよ。これが贈られた後に国交断絶したからね。どう、見たくなったでしょ」

 レイ様がニヤッと笑います。私の顔を窺うように覗きこまないでください。
 至近距離は心臓に悪いのですから。

「いえ、そんなことはありません」

「そう? 桜の花は一年に一回しか見れないんだよ。天候にも左右されるからすぐに散ってしまうこともあるし……」

 そんなこと言って焦燥感を煽らないでください。見たくなるじゃないですか。

「来年のこととはいえ、レイ様の貴重なお時間を取らせてしまうのは申し訳ないので、お気遣いはいりませんわ」

 そうです。今だって特別に時間を取って下さっているのでしょうし、迷惑をかけてはいけませんもの。

「わかった。そうだね。来年のことだもんね。ちょっと強引すぎたね。ごめん」

 ペコっと頭を下げたレイ様。レイ様が謝ることではないのですけど。

「いえ、私もちょっと意固地になってしまって、レイ様は悪くはありません。私の方こそ申し訳ありません」

 私も頭を下げました。

 シーンとなった静けさになんとも言えない気まずさと罪悪感が徐々に胸に迫ってくるわ。

 どうしたらいいのでしょう? 
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